気刊くろみつタイムス

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#Kenshi 2-70:エピローグ(2)

マスターは、後の事をボーに託し、Mozuを連れて旅立った。
 
既に国軍はシェク軍残党との戦いに自力で勝利出来るようになっている。
技術は極め、装備も防備も更新が進んでいる。
安心して後を任せられる。
第四帝国は、この世界の者達の国であるべきなのだから。
 
 
マスターとMozuは、アッシュランド最深部、宇宙港跡へとやって来た。

マスターは、彼女が誰だったのか、今では完全に思い出している。
その肉体がどのような人物の物だったのかは定かではないが……
肉体を乗り換え、流転し続けて来た自身同様、その精神が「彼女」のものだったという事は理解している。
 
今こうして、晴れやかな表情で佇んでいるという事は……
今度は合格、と言った所か。
 
ここまで、想像を絶する苦労を掛けてしまったな。
だから、せめて、その礼として、彼女だけは連れ帰らねばなるまい。
その肉体を、持ち主に返すためにも。
そう思い、マスターもまた穏やかな表情で僅かに微笑む。
 
USSティラン。
地球連邦が誇る惑星間長距離探査船、その一隻が、アッシュランド地下深くに封印された宇宙港に存在する。
長い、長い旅の記憶を次第に取り戻しつつある今、その名の持つ意味が彼らにはよく分かっていた。
 
これから、我々は「第一帝国」たる地球連邦に帰る事が出来るのか?
 
それとも……
 
 
全ては、アレの気分次第か。
 
 
 

 
私は……
Mozuと名乗っていた私は……
全て、記憶を保ったまま、彼の戦いを見守り続けていた。
 
次元ポータルの気まぐれか、それとも私自身の使命感がそうさせたのか、二度の転生を経ても、またあの男の傍らに存在する羽目になった。
 
ならば、これは私の使命だ。
本当の、本当の私の主に再会する日のため……
「それぞれの世界」の未来を守るため……
私は、覚醒したバグマスターを見張り続けなければならない。
 
今や、人間をも洗脳可能な超能力を得たこの男は、極めて危険な存在だ。
いつでも殺せるようにと、私はこの男に食らいつき続けた。
 
命を掛け、他者を犠牲にしてまで……

「マスター」の腹心として働き続け、命を守り、ヤツの死=転生を阻止する事に全力を注いだ。
 
もうヤツの野望が世界を犠牲にする事は許さない。
 
幸い、この世界のヤツの肉体は不老長寿だ。生きたまま、この世界に留めてやる。
そして、この世界でも野望は阻止する。
全人類の洗脳など、絶対にやらせない。
 
それが、暗殺という手段をもってしてもループを終わらせる事が出来なかった、私の歩むべき贖罪の道だと思った。
 
Mozuとは、この肉体の名前でしかない。
 
私は……
 
私は、セイント。
 
敬愛するクロコ様の忠実なる秘書。

主君の傍らで支える事は、私の最も得意とする仕事。
 
その私の懸命な努力で、彼が変わってくれたのだと……
そう信じている。
 
だから、後悔はない。
 
クロコ様と離れ離れになったとしても……
今、こうして再び次元ポータルに向かって飛び立つ時が来たのだから、後悔は無い。
 
 
行け、ティラン。
かつてその名を借りた、思い出の船よ。
 
 
もう一度、私達をループへと導いて……
 
 
 
 

 
時を、振り返る。
 
あの日の出来事を、見てみよう。
アッシュランドの最深部、隠された宇宙港で、英雄クロコと戦った、あの日を……
 

 
 
 
キャットロンの玉座、その居城の中央シャフトに隠されていたエレベーター。
そこに、地下ドックへの道が隠されていた。
 
私は、宇宙船に乗り込んだ。
キャットロンが秘匿し、いつか星の海に帰るため、完全な状態で保存していた、希望の船に。
 
狂った王は、本来の目的……
「星を脱出する」手段を失っていた。
 
彼の腹臣達の持つ認証コードが揃わなければ、オーバーライドは不可能。
第一帝国の命じた、「この地を統治せよ」という命令の無効化が出来ない。
この地を離れる事は出来ない。
 
だが、マスターは既に必要分のコードを集め終えている。
 
数千年封印されていた宇宙港は、ついにその本来の機能を取り戻した。
 
奥底にある、ゼノモーフ・アルファユニットとしての記憶を呼び起こし、未来的な、超古代の機器を操作。
 
赤色灯が明滅し、機械音声のアナウンスが流れ、施設全体を振動させるような重低音が唸りを上げ始めていた。
 
 
 
「こんな所で再会なんて、中々ロマンチックじゃないか? ええ、バグマスター」
「2度目のダンスだからな。 今度は退屈させないよう、気を遣ったものだよ」

地球連邦・宇宙艦隊所属、探査船「USS ティラン」。
私が憎き仇敵、クロコと再会したのはその船内だった。
 
私の目的は、その船で天へと登り、遥かな故郷へと帰る事……
 
 
もう一つの目的、「兄」たるキャットロンを倒す事、それはクロコのお陰で既に果たされていた。
 
クロコ…… その驚くべき戦闘力と生存能力……

新興国家「メッメ堂座」の者達に対する敬意と、ささやかな私怨から、私はルカの片足を奪った。
肉体に取り込み、ルカの知識・経験・遺伝子情報を得た。
密かに潜入したガットの「ガル喰湯」から、ビープの腕をも回収。
 
シェクとハイブ。
これらは、まだサンプル数に乏しい現代種族の遺伝情報の中でも、格別に「美味」な情報であった。
 
バグマスターと名付けられ、アラックに閉じこもって己を鍛え続けていた私は、世界の今を知らなかった。
戦闘種族たるシェク軍の総力を持ってしても、スパイダー軍団を越えてやってくる「最強の勇者」は造り得なかった。
 
クラルと呼ばれたあの男を越える逸材、最強の戦士の肉体に期待し、数百年を掛けて蜘蛛達による蠱毒の場を築き上げたはいいが……
私の期待に沿う勇者はついぞ現れなかった。
 
だから、世界はもう、弱者の世界になったのだと思い込んでいた。
 
アドマグの牢獄から脱した私は、クロコの旅した世界を、彼女の痕跡を辿るように旅した。
私を倒した戦士は、いかにして造られたのか?
それは、胸躍る冒険譚を辿る旅であり、興奮と、憧れと、憎悪を掻き立てる旅だった。
 
それほど…… 冷静だった私を感情的にさせるほど、「片足を奪われる」と言うのは、屈辱の極みだった。

奪い、吸収し、積み重ねてきた完璧なる不死の最強戦士としての肉体。
その完全なる調和を破壊したクロコの罪。必ず償わせてやらねばならなかった。
 
今までは、我が下に現れる勇者に対し、手加減をする必要があった。
完全武装で戦っては、敵に全く勝ち目が無かった。
フェニックス一世…… 降下猟兵としての究極の肉体を持つ私が、尚も成長を続けるためには、防具を捨て、あえて攻撃を受けてみせる事も必要だった。

からして、私は裸でいる事に慣れすぎていた。
それが、敗因であったのだろう。
己が慢心が原因ではあるが……
これは、私がこの小さな星を旅立つ前の儀式のようなものだ。

心残りがあってはならない。

最高の舞台で、華々しく終える、通過儀礼
からして、私は彼女が約束の地で追いついてくるよう、待ち合わせをしたのだ。

サッドニールなる、哀れなスケルトンを洗脳支配し、招待状を書かせもした。
キャットロンの持っていた設備の全てを手にした今、スケルトン洗脳など、そう難しい物ではない。
 
私が、この地に眠る「第一帝国」……地球連邦の遺産を手にすれば、絶対的な支配力を持つ事となる。
 

衛生軌道上で休眠状態にある巨大兵器による、全人類に対する洗脳波の放射。
 
それは、真なるオクランの世界を生み出すための、究極の一手。
栄光の第一帝国、恐怖の第二帝国、希望の第三帝国……
そのいずれをも超越する、究極の第四帝国が誕生するのだ。

第四帝国……

第三帝国、あるいは、第三共和国…… 
その時代が崩壊して久しいこの時代、「第四帝国」を目指す者の、なんと多かった事か。
我がクローン、我が末裔、近世のホーリーロード達がトレーダーズギルドの甘言にいいように操られたのも、新時代の覇者となる事を夢見て、その野心につけこまれての事だった。

私が…… 私だけが、それが絵に書いた餅である事を知っていた。
 
いかに都市連合がその秘密を皇帝やホーリーロード達にチラつかせたとしても、キャットロンとの戦いに勝たねば、真の秘匿技術までは辿り着けない。
 
この世界の技術では、人は不老不死になどなれはしない。
 
人間の遺伝子を操作する技術は、この星にない。
大陸を飛び越え、星の世界に飛び立つ事も、ここに辿り着けねば不可能。
 
鍵が揃わなければ、旧世界への扉は開けない。
封印された宇宙港を蘇らせるためには、キャットロンとその配下を打倒し、ヤツの施した封印を解除しなければならなかった。
 
だが、あの汚染された南東の地を越え、大軍団を越え、我が兄キャットロンを討つ事が、ただの人間に出来ようはずもない。
 
永遠不滅の完璧な肉体を持つ私だけが、実行可能。
 
長い時を掛け、今よりもっと鍛え上げ、不老不死・完全無敵の「究極の個」としての完成を果たしてから挑む……
そのつもりであった。
 
それが、どうだ。
 
国を追われ、やせ細った無力なシェクの成れの果て…… クロコ。
 
スクインの衛兵の話では、盗賊や小動物にすら敗北する、この世界で最も非力な存在だったと言うではないか。
そんな、ありふれた存在が、私を倒し、キャットロンをも倒したと言う。
 
この私の怒りと憎悪は…… 嫉妬、なのであろう。
 
憎しみの中の憧れと、「食べたい」と言う情欲。
千年を越えて久しく、生命体としての生の感情が私の中に蘇る。
 
だから、この時、この場所で、私は彼女と対峙したのだ。
 
邪魔の入らない一対一で、完全武装でもって、彼女を遇する。
 
最高の瞬間。
そのはずだったのだ。
 
が、しかし……
 
女テックハンター、ユキとクロウの2名は、洗脳を施したバーンとサッドニールによって足止めに成功したものの……
クロコの傍らには、女王の側近らしい女が控えていた。
 
邪魔者の排除は失敗。切望した一騎打ちは成立しなかった。
 
我が悲願を代わって成し遂げたクロコこそ、我が後継者として相応しい。
オクランの教えを全人類に植え付けた後、私はその平穏で完全なる世界を、遺産たる第一帝国の秘匿技術の全てと共に彼女に託し、自身は故郷たる青い星、地球へと旅立つつもりであった。
 
そのつもりであったのに……
 
なんという、最悪の結末であろうか。
彼女は所詮、定命の者でしかなかった。

愚かしくも、女王としての責務に追われる間に、彼女はその肉体のピークを終えていた。
 
 
死闘の末……
 

サッドニール、ユキ、クロウの三人を飛び立つ寸前の船から降ろし終え、クロコは満足気に息絶えようとしていた。
猛然と斬りかかってきた副官の女の方が、余程強かったかもしれない。
セイント、とか言ったか。 アラックでも見た顔だ。
 
 
 
「クロコ、お前は第四帝国皇帝となれ」
 
戦いの前に贈った言葉は、本心からのものだった。

戦う個としての彼女はもう失われたも同然だったが、為政者としての彼女はまだ残っている。
彼ら新時代の「剣士」達ならば、あるいは第二帝国のような愚を犯さず、正しく技術を扱えるかもしれない。
ロンゲンを倒し、ジ・アイを完全破壊してみせた彼女達にならば、この星を託して旅立つ事が出来る。
本気で、そう思っていた。
 
「嫌だね」
 
宇宙港管制施設に存在するアーカイブの存在を伝えたと言うのに、クロコは下船を拒否した。
そして、あろうことか、クロスボウを撃ち始めた。
年齢から来る衰えを補うべく、戦い方を変えたのであろう。
それは、小癪にも有効な戦法だった。
 
アラックの再現。
かつては部下に任せていたその支援射撃を、今度は自らが買って出る。
 
壊れかけた拳士バーンが、復讐戦を挑んでくる。
バーンとセイントの2名が、私を接近戦で追い込み、クロコが牽制の射撃を続ける。
 
結果、バーンは大破。
文字通り、バラバラになったが……
頭部はなんとか無事なようだった。
 
「逃げろ」
 
最後にバーンが絞り出したその一言に、クロコもセイントも従わなかった。
猛然と、二人はその技の精度を上げ、私を追い込んでいった。
 
長い戦いの果て……
先に気付いたのは、奴らの方だった。
 
USS ティラン発進のカウントダウンが始まった頃、クロコの射撃が私の背後に着弾し、ようやく異変に気付く事が出来た。
 
クロコとの戦いで頭部を喪失したものの、スラルとなって蘇ったキャットロン。
我が兄が、姿を現していた。
その手がバーンの頭部を拾い、自らの肉体に接続する。

そうか、そうだったのか。
肥大化するキャットロンのメモリーを認証コードと共に分散保存した際、バーンも参加していたか。
 
全知全能足らんとするキャットロンの基本構造は、バーンの中にあっても変わらなかったのだろう。
自我の崩壊が近いと言うバーン。
その崩壊をもたらしていたのは……

「久しぶりだな、オクランよ」
 
「兄さん…… 元の兄さんに、戻ったのか……!?」

倒すべき狂王キャットロンは消え、知性体全ての保護を目的とした大いなる管理者、「ナルコ」が帰ってきたのか?!
 
彼の持ち得なかった人間的感情、その欠点を補うべく生み出された私は、ついに正しく本来のその目的……
父から託された仕事…… 兄の補佐をこそ行うべきなのではないか?!
 
人類保護機構、ナルコ。
それは、オクランたる私と目的を同じくする。
ついに、表裏一体の我らが一体となり、地球連邦の果たせなかった夢の世界の建設を、今こそ始められるのではないのか……!?
 
「キャットロン! 今こそアルファユニットとして、このフォボスの地を正しく導くべき時が来たのではないか!?
 今なら、数多くの失敗を経た今ならば、我々は今度こそ正しく世界を……
 止めてくれ! 発進を止めてくれ! やり直そう、兄さん!
 この世界の人間達は、こんなにも逞しく育ったんだ! 今度こそ、父さんの願いを……!!」
 
「何を言う、我が弟よ……」
 
ああ、この声は……

狂えるキャットロンではない。
冷徹な暴君、キャットロン。
全盛期のティンフィストを持ってしても止める事の出来なかった、最強・最凶の暴君の物ではないか……
 
最終兵器の人類洗脳プログラムが変更された。
洗脳ではなく、抹消に。
 
「この汚らしく矮小な世界に何の未練があろうか。
 アルファポイントは、遥かな星々の海にこそ見いだせるであろうよ。
 元来、お前には惑星降下制圧兵の指揮者としての機能が与えられているだろうに……
 支配するでもなく、殲滅するでもなく、無為に千年を経ても尚、お前は、何も変わろうとしない愚かなクローン共に肩入れを続ける気か?」
 
博士は……
父は、人類の守り手として、まず初めにアンドロイドを作った。
その人格プログラムがどうしても不完全な物にしかならないと知った時、遺伝子強化された降下兵をベースとして、新たな変異種を完成させた。
 
 
サイブレックス・アルファユニット、『ナルコ』
 
ゼノモーフ・アルファユニット、『オクラン』
 
アンドロイドの兄と、バイオロイドの弟。
 
 
ナルコは人類の保護と管理を任務とし、オクランはその監視と懲罰を任とした。
 
政治と、軍事。
兄弟の調和によって、火星の第一衛星をテラフォームした人類の新天地、「フォボス」の開発が完了するはずだった。

共に不滅の肉体を持ちながら、保護と撃滅という正反対な機能を与えられた我々は、共に手を携え、この星……
小惑星フォボスの上に人類の理想郷を築き上げるという任務を与えられ、テラフォーミングを進めた。
それが、この星…… 剣士達の暮らす大地の正体だ。
 
が、その計画がキャットロンの暴走を契機に崩壊を始めたのは皆も知っている通りだ。
 
当初は、「神」たる地球連邦の管理下から脱するための、自由と独立を求める正義の戦争であった。
その崩壊は、、完璧な管理者であったはずのスケルトン達に感情が芽生えた事から始まったのだろう。
 
惑星占領用の降下兵団として設計された肉体を持つ我々の末裔が、フォボスの民草……「剣士」達だ。
 
量産型である彼らの能力は私より劣るが、環境適応力と再生力に優れ、ただの人間よりは遥かに強い。
いかなスケルトンとは言え、容易に制圧できようはずもない。
 
神の代行者…… 天使たるはずのスケルトン種が、「弟」劣化コピー種に敗れ……
あろうことか、大天使長たる己を裏切り、堕天して愚民に付くスケルトン達も次々と……
その現実が、キャットロンの自己認識を完全に打ちのめし、狂わせた。
 
そう、キャットロンが「元に戻った」のであれば……
自我の崩壊を防ぐべく、分割処理を施した、その前に戻ったのであれば……
彼は、星の管理者。 つまり、神の代行である。
 
人類が滅びかけるほどに、間違った方法で統治し続けた暴君が、今……
完全に復活した。
 
 
「なぜ逆らう。
 我らが、ナルコが、正しく貴様らを庇護し、守り、育ててやろうと言うのに」
 
その鉄腕による一撃は、驚異の鋭さをもって、私の肉体に決定的なダメージを与えた。
バーンとして戦い続けた際の、人類種固有の新たな力、「武術」の学習が、その技にさらなる冴えをもたらしたか。
 
「アルファプログラムはリセットせざるを得ない。
 これより、フォボスの全てを一度無に帰そう。
 天地創造を再びゼロからやり直そうではないか」
 
言葉の意味は分からずとも、それが全生命の死を意味する事だけはクロコ達にも伝わっている事だろう。
 
「クロコ、セイント、ヤツの個体としての戦闘力に対抗するには、お前達の力が必要だ……」
 
「皆まで言うな。 今さらお前と共闘する事になろうとはね……」
 
「少し、痛むぞ」
 
私は、右手と左手で、それぞれクロコとセイントの顔に触れる。
 
「ッ!!?」
 
「効きは遅いが…… それで、お前達もオクランとなる」
 
「オクラン……ですか?」
 
「庇護者たる機械生命体・ナルコの対局、殲滅者たる有機生命体・オクラン。
 我々はこの世界を守る為、究極の戦力として生み出された生物兵器
 その末裔であるお前たちにも、幾らかの力は受け継がれている。
 その能力に掛けられた制限を、今解除した」
 

Kenshi達の世界に語られる神話、ナルコとオクランの戦い。
その再現が、今にも飛び立とうとしている小さな船の中で繰り広げられていた。
 
最後の戦い。 全てを出し切るべき時。
 
私は、今この時、「個」である事を捨てるべき時だと信じた。
 
個でしかない私は、群であるクロコ達に破れた。
彼女らに倣おう。
 
自身の内にある情報から、戦力となる個体を生み出し、数での戦いを行う事とした。
肉体再生能力を応用し、次々と分身を放出。
己の肉体に蓄えてきた力が恐ろしい勢いで抜け落ちていく恐怖はあれど、もう迷わない。
 
幾人かのホーリーロード達……
クラルその人……
ルカ、そしてビープ……
 
完全な「個」である事を捨て、仮初めの命でしかない「群」を量産。
各々船内に残されていた銃器を使い、弾幕を持って圧倒していく。
その戦線を支えるのに、今までこの身に宿してきた英雄達の戦力は充分であった。
 
 
 
 

やがて、光と轟音の中、宇宙空間へと飛翔した宇宙船から、輝く物体が放出される。

星々の光をたたえ、煌めくそれは……
再び切断されたバーンの……キャットロンの頭部であった。
 
狂王の魂は、永遠に虚空を彷徨う事になったのだ。
 
 
 

そして、第一帝国・地球連邦の調査船、USS ティランは、始祖の地たる惑星、「地球」を目指す。
 
ノーマルドライブが速度を上げ始め、ジャンプドライブの始動が秒読み状態となる。
ジャンプ航法の操作など、私は行っていない。
 
ヤツの置き土産だ。
 
軌道上の巨大兵器は停止させた。
もう何者もこの船の発進を止める事は出来ない。
最早操船技術が失われて久しく、私に出来る事と言えば、ノーマルドライブの目的地に、遥けき故郷の座標を指定する事くらいしかない。
ジャンプの止め方も分かりはしない。
 
そして、キャットロンの制御を得られないまま発動した不完全なジャンプは……
 
事故を起こした。

私と、クロコと、セイントを乗せたティラン号は、閃光と共にこの宇宙から消滅した。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
それから、どれほどの年月が経ったのか、定かではない。
 
私達三人は、ティラン号と共に幾つかの星で冒険をしたように思う。
それが現実の出来事だったのか、船の用意したバーチャルな体験だったのか、今となっては判然としない。
 
 
 
はっきりしているのは、何か、得体のしれない……

黒い球体を見た、という事だけだ。
 
 
 
星の彼方、異次元への門をくぐり抜けた時、我々は時空をも越えて、離れ離れになってしまった。
記憶も人格も失われ、新たな世界、新たな次元へと至り、その世界で適合する人物に宿る事となったのだろう。
 
次に私が目覚めた時、私は……
 
 
 
 

 
 
 
 
とある惑星の、戦闘種族の将星であった。

私の中に眠るオクラン原理主義者の因子が、この男に色濃く反映されていた。
それは、私以上に真っ直ぐで…… そして、狂っていた。
 
完全なる異種族の排斥。
彼らエキニャンの民は、浄化主義を取り、全宇宙を制覇すべく、無謀な戦争を続けていった。

全宇宙を敵に回し、敗戦。 私は失脚の後に暗殺された。
 
 
今にして、あの他人の肉体に宿った前世をハッキリと思い出す。
 
そうか。
そういう事か。
 
彼の地で我が覇道を支えた、あの女科学者……


名を、ティランと言ったな。
 
 
エキニャン帝国を支えるようでいて、間違った選択へと誘い続け、帝国の崩壊を確認してから消えていったあの女……
船の名を偽名として使ったあの女は、クロコかセイントか、どちらかの転生体だったのであろう。
 
私の野望を阻止すべく懐に入り込んだ獅子身中の虫、か。
その名を耳にしても記憶の蘇らなかった、かつての自身を呪いたくなる。

今にして思えば、当時学んだ異次元ポータルに関する知識……
その中にあったサイブレックス・アルファの記述。
あれこそは、アルファ・プログラム「ナルコ」それそのものであろう。
 
長い漂流の果て、キャットロンの頭部は新天地へと流れ着き、そこで新たなサイブレックス・アルファを建設したという事か。

そして、サイブレックスの滅びを確認し、その記録を残した地球帝国の女帝というのも……
あの女、だったのかもしれんな。
 
 
 
 

 
 
 
私が次に転生したのは、醜い昆虫型異星人であった。
 
私は、群体の虫の強さを知っている。

新たな生での戦いは、驚く程スムーズに進み、私は「仲間」の力の強さを学んだ。
私は銀河の調和の何たるかを理解し、満足の内にまた転生を果たした。
 
 
 

 
 

どの分身のお陰かは分からないが、私の分体はついに次元ポータルの制御に成功したらしい。

ようやくにして、私の意識は元の自我を取り戻し、フォボスの地に舞い戻る事が出来た
強壮たる降下猟兵、ゼノモーフ兵の肉体はもう無い。
 

私は冒険を初めたばかりの時のクロコのような、非力で無力な1人の人間として、この世界に転生した。
 
 

気付くと、最後に残った分体、ビープのコピー体である「ビーパー」が共に在った。
おそらく、次元ポータルをなんとかしてくれたのは彼なのだろうが、その知性は転生によって失われていた。
 
 

そして、残った僅かなリソースで生み出された最後の分体が、エリゴスという女だった。
エリスと呼ばれる男の遺伝情報から造られたようだが、私もこいつの事はよく覚えていない。
あるいは、ルカの因子をも内包していたのかもしれないが……
 
 
 

更に、次元ポータルの渦に巻き込まれた、異次元からの来訪者…… Mozu。
とある次元漂流現象に見舞われた都市の住人だったとの事だが、彼女の事は殆ど分かっていない。
たまたま、いずれかの並行世界から流れ着き、セイントの精神を宿す容れ物として使われてしまっただけの事なのだろう。
 
 
そして、私……

「ゼノモーフ・アルファ」
「オクラン」
「聖王ホーリーロード・フェニックス一世」
「バグマスター」

数多くの名前を持つ私が、今生で名乗った名前が、「マスター」。

偉大だった過去の諸存在とはまるで違う、劣化に劣化を重ねた、最後の絞りカス。
その悲惨な成れの果てが名乗るには、「マスター」ですらおこがましくはあった。
 
スパイダーを操る力は、今や人類種に対する限定的な洗脳効果しか発揮出来なくなっていた。
軍団を作って身を守る事も最早不可能。
ヤギにも劣るこの肉体で、何をどうやって生きて行けと言うのか。

不老不死は失われ、次元ポータルによる転生制御ももう期待出来ない。
このまま、この世界の片隅でボーンドッグに食われる末路が私を待っているのだろう。
 
絶望。
 
絶望は、しかし、一瞬。
 
あの女は、やってみせたのだろう?
 
この状況から、世界を救ってみせたのだろう?
 
ならば、私もまた、やってみせねばなるまい。
 
目標は定まった。
あの女を越える。
 
クロコ以上の大帝国を建設する。
クロコ以上に個として戦って見せる。
 
破壊者として敵を討ち、庇護者として民を守る。
それが、今生の私だ。

マスターによる第四帝国、『Master Fourth』。
その建設こそが……
 
 
 
 
 

 
 
第三帝国の残滓たる、三大国を打倒。
第二帝国の残党を打倒。
名もなき民達の希望となる、第4帝国を建国。
目的を達成し、マスターの戦いは終わった。
 
今、数千年の時を経て、第三帝国の生まれた地、ブリスターヒルに、この星の歴史始まって以来の大都市となるべく、「第四帝国」が成長を続けている。


私はやり遂げる事が出来たのだろうか。

強き個でありながら、優しき守護者であっただろうか。
 
その結論は、私の命が尽きる時、後世の者が出してくれる事だろう。
 
 
 
 
母なる星、地球の父よ。
私は、貴方が望む、優しき戦士となれたであろうか。
 
この星の民……
いつの日か、Kenshi達にも星々の海に漕ぎ出でて、銀河列強と肩を並べられる日が来るであろうか?
 
それを見守る事はもう出来ない。
 
だが、私は知っている。
 
戦う事しか考えられなかった愚かな私が変われたように、か弱く、愚かで、粗野で暴力的なKenshi達も、やがて変化していくのだという事を。
 
愚かで、粗野で、暴力を振るう事しか知らなかった彼らと、笑い合って共に旅したあの日を、私は忘れない。

 
あらゆる並行世界で、Kenshi達は成長し、蛮人達が英雄譚を魅せる。
 
願わくば、私にもまた、どこかの荒野でツルハシを振るう来世が与えられん事を願う。
 
 
 
ありがとう、Kenshi達。
いつかまた、共にサボテンを噛もう。
 
この星は彼らの星となるべきだ。
私の庇護はもう必要ない。
 
旅に、出よう。
 
 
 
この世界で再びキャットロンを倒した事で、宇宙港の封印は解かれた。
 
 
今度こそ、ここに帰る事なく、真っ直ぐに跳ぼう。
遥かなる父の故郷へ……
 
 
 

 
 
 
「マスター、貴方は、やはり地球へ?」
 
「ああ。地球の祖、第一文明というのも見てみたいが……
 やはり、父のいた世界が今どうなっているのか、まずはそれを確認しておきたい」
 
「では、ようやくお別れですね」
 
「Mozu…… いや、セイント。
 君は、クロコを探すアテがあるのか?
 そもそも、その肉体の持ち主の世界がどこにあるのかも……」
 
「フフ……
 アレは、対象を観察し、その願いを汲み取る性質があるようですから、あまり心配はしていません」
 
「高次存在、「観測者」か。 気に入らんな。
 オクランやナルコのような人造神と違い、本物の神が実在しようとは」
 
「貴方と別れてからの転生の一つで、アレに関する情報を得ました。
 『待ち構えるワーム』は、四つの並行世界に干渉しているそうです。
 きっと、次の転生では、また別の世界に飛べる事でしょう」
 
「剣士(Kenshi)の世界、星々(Stellaris)の世界、さて、次はどこに流れ着くやら……」
 
「なんというか、こんな時ですけど」
 
「ああ…… ワクワク、するな」
 
 
 
 
ジャンプドライブの設定は、あの日の再現。

 
正しく事故は起こり、次元ポータルを経て、ワームホールの彼方へ。
 
 
 
 
 
 
 
 
『やあ、やっと周回を終えたね?

 

 次は、どこに飛びたい?』
 
 
 
 
 
 
<完>