さあ、戦いを続けよう。
開戦と停戦を繰り返し、敵地の削り取りは順調に進んでいる。
銀河の対立構造は、概ねこのような形になる。
どことも戦わず、中立を貫くフォギも、ついにバビルに宿敵宣言を出し、火種がくすぶり始める中、バビルはエルゾと防衛協定を結ぶ。
ケンジョダンはバビル、エキニャン双方から挟撃され、国土の大半を失いつつある。
弱った獲物は、ライバルに横取りされる前に食い尽くしてしまわねばならん。
一気に敵本星を叩き、ごっそり領土をいただくとしよう。
2234年、戦後の占領地政策として、反抗的な敵星人を再び浄化開始。
エキニャン人の移民だけで足りない人手はロボットで補う事とする。
2334年。
フォギ、バビルへの敵対心から、ついにウィンダーらの「有益同盟」の一員となる。
負け続けの軍事力はともかくとして、これで国力的には敵連邦の一強状態か。
国力比を見ると、同盟盟主ウィンダー、国土の大きいバビル、軍事力のエキニャン、と並ぶ中、いつのまにかフォギの力が増しつつある。
これは、そろそろなんとかして同盟に対抗せねば、大きく差を付けられる事にもなりかねない。
とは言え、無策で同盟に挑むのは危険。
まずは「悲惨」まで落ちぶれたケンジョダンが先であろう。
2336年、ケンジョダンに宣戦布告。
今回で滅亡まで持っていくつもりで、二個艦隊を送り込む。
敵艦隊は既にまとまった戦力を編成する事が不可能な状態。
ここからは一方的な、戦いとも呼べない一方的な殲滅戦が続いた。
詳細は省くこととしよう。
同年、占領地の混乱が深刻化。
それはそうだ。いずれ全員が殺されるとなれば、死にものぐるいで抵抗もするだろう。
2337年、同盟盟主ウィンダー、エルゾに宣戦布告。
チィッ…… タイミングが悪いではないか。
これで防衛協定を結んだバビルが、有益同盟のフスコに殴り掛かる事になる。
是が非でも、こちらも呼応して挟撃せねばならん。
少々無理をしてでも参戦を急がねば……
2341年、我が艦隊はケンジョダンの惑星、その一つ目を制圧。
2243年、2つ目を制圧。
残るは敵本星周辺のみ。
2344年、2331年から続くバビルのケンジョダン侵攻が止まる。
四カ国が敵ともなれば、ケンジョダンに軍を向けている場合ではない、か。
ならば、我らも見習うとしよう。
ケンジョダンから最後の戦力3000が出てきた所で、無駄な戦力損耗を避け、停戦。
2348年、停戦合意を得る。
バビルが南を削り、我が方が北を大きく抉り取り、ケンジョダンは既に死に体である。
惑星の数は1のみとなった。あとは滅びを待つのみ。
一方で、エルゾは母星前まで切り込まれてはいるものの、よく持っており、逆にラギンチュ領を幾つか取ってもいる。
大したものだ。
「有益同盟」は四カ国で組んでいながら、かなりの劣勢。
我が帝国との戦いでの傷が癒えていないと見た。
そして、同盟側はフスコがバビルに攻め込まれ、母星セクターのみを残して滅亡寸前の状態。
ここは上手く漁夫の利を得たい所。
エキニャン領内を通って、バビルの艦隊が進む。
最後の仕上げに入るようだな……
ならば、ありがたく便乗させてもらうとしよう。
2352年、有益同盟に宣戦布告。
バビルの大艦隊に紛れて惑星を占領し、フスコ滅亡を確定させるのだ。
幸い、連中は降下兵を連れてきてはいない。
その、直後であった。
2353年、同盟 vs バビル&エルゾ の戦争が終結。
おのれバビルめ、我が帝国との共闘などしたくないという事か?!
いや…… そうではないな……
こちらが上手く足並みをそろえられなかっただけ。
16年も戦闘が続いたのだ。
単に今が戦争疲弊の限度だっただけなのであろう。
それにしても、あれだけ勝っていたバビルが、たった4星系しか確保できていないとは。
以前から領有欲の薄い連中だと思っていたが、ここまで請求権を出さずに戦っているとは驚きだ。
結果、戦闘ではバビルが大きく勝っていたにも関わらず、領土面では実質負け戦となっている。
そして、国境が動いた事で……
この、飛び地である。
漁夫の利艦隊の帰り道が封鎖され、敵地で孤立。
降下兵団が到着する前だったのが不幸中の幸いか。
2354年。
常に僻地となっていた北西辺境宙域に、予想外の戦力が出現。
11460。
辺境艦隊ではまったく勝負にならない。
ケンジョダンまで遠征していた主力、二個艦隊10000強の戦力が戻ってくれば戦えるだろうが、それまでにまた長い引き撃ち戦が必要となるだろう。
面倒な事になってきた……
ここまで負け続けて来た連邦に、よもやこれだけの戦力が残っていようとは。
2355年、南からも計12000の敵艦隊が北上。後詰めには更に7000程度の本国艦隊までいる。
劣勢の大戦争の直後だと言うのに、まさかここまでの戦力を保持していようとは。
逃げ場を失った帝国艦隊は後方を荒らして撹乱するが、敵はこちらを見向きもせず、エキニャン領へと進撃してしまう。
主力艦隊を呼び戻して戦えるのは、南と北、どちらか一方のみ。
こちらの、本国周辺……旧テゼキアン駐留艦隊6000では二つの敵主力、そのどちらとも戦えない。
ふと、先日目にした戦闘教本「広大マラソン」を思い出す。
圧倒的な強豪国の領内奥深くに入り込み、領地を荒らして戦勝点を稼ぐという内容だ。
目と鼻の先、敵レギンチュ本国はまるでガラ空き。
6000の艦隊で充分蹂躙出来る状態。
ならば……
あっさりとレギンチュ母星宙域を制圧。
降下兵の到着を待ち、敵母星含むほぼ全ての惑星を占領する。
この戦勝をもって早期停戦に漕ぎ着ければ、判断ミスの被害も最小限で抑えられるだろう。
さらに、敵地に取り残された漁夫の利失敗艦隊も、敵母星に殴り込み。
敵国の設備を利用して修理しつつ、敵本隊との追いかけっこを繰り返し、荒らしに荒らし続ける。
2357年、ケンジョダン方面からワームホールを通って駆け付けた第一艦隊8000が到着。
反撃が始まる。
中途半端にバラけた敵艦隊を相手取り、連戦連勝を重ねるが、次第に手傷を増していく。
残りの艦隊は北西方面に向かわせてあるのだが……
北方辺境、マラディス守備隊が戦々恐々とする中、敵侵攻は中途半端に止まり、寸前でUターン。
戦線崩壊には至っていなかった。
なんだ、この生殺しの戦い方は……?
こちらを無視し、降下兵の攻撃を受け続けるレギンチュ本国の救援に向かったか?
ならばありがたい。
殴り込み艦隊が逃げ遅れないよう、警戒を強めておくとしよう。
が、しかし、敵主力11400艦隊が出現したのは、全く違う場所……
銀河北東外縁部、いつぞや奇襲を食らったあのワームホールからであった。
完全に虚を突かれた。
周囲には無防備な無人の宙域が広々と拡がっている。
これは…… かすり傷では済まんぞ……
2358年。
唯一心許せる異星人の友、「地球連邦」の女科学者ティランが死んだ。
延命技術の恩恵により172歳の大往生。
彼女は、私の認める唯一と言っていい「異分子」であった。
何せ、地球人は彼女たった一人。絶対に増える事がない、たった一人の地球人。
つまり、浄化する必要が無い、安心できる相手なのだ。
帝国の技術の発展に大きく貢献した偉人でもあり、私の良き相談相手でもあった。
この苦難の中の別れは、存外に辛いものであった。
2358年、11月。
レギンチュ母星セクター、最後の惑星を占領。
僅か6000の兵力で絶大な戦果を上げてくれた。
戦況はこうなる。
敵の狙いは艦隊決戦ではなく、こちらの本土であったか。
実質、数倍の戦力の敵相手に、勝てる戦いだけを拾ってなんとかこの形に持ち込んでいる。
散発的に少数の敵が来るため、北は動かせない。
まず、西の制圧艦隊5000を戻し、8000の自軍と合流し、敵7500艦隊を撃破。
次に11000の主力との決戦……
こういう形になるだろうか。
時間を掛けすぎると、また倒した敵少数艦隊が復帰してきて、国境を荒らされるだろう。
ここを凌げば、辺境を少々削られはしても、敵本土を奪っての「実質上の勝利」で停戦に持ち込める可能性もある。
事はどれだけ戦勝点を稼げるかに掛かっている。
敵連邦の底力を侮っていた。
形勢は、良くない。
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