気刊くろみつタイムス

主にゲームプレイ日記。過去記事一気読みは「目次」からどうぞ! ※他ブログからのインポート引っ越し時に改行崩れ&画像消滅が発生しています。

#Kenshi ZA-51:決戦編⑦

 
リドリィはかつての主と長く言葉を交わし、語り合っていた。

この地がこうなる以前、彼女達傭兵チームが彼を支え、戦い続けていたはず。
語り合うべき事も多く存在するのだろう。
 
肉体を蝕むZ因子。
既に、末期を迎えている。
サヴァンに残された時間はそう長くない。
 
やがて、クロト達は再会する事の無いであろう旧友との別れを済ませ、その居城を後にした。

 
帰路、サザンハイブやブラックゴリロとの戦いに手を焼き……

 
傷だらけになりながら、ガルトナーの町へと帰還した。

一人の犠牲者も、重傷者すらもなく、全員で帰還する事が出来た。
 
終戦に向け、彼らの士気は否が応でも高まっていた。
 
 
 

第五部:決戦編⑦ 決戦前夜

 
 
 
 
敵本拠地「アイアン指揮所」へは、長い道のりになる。
今回以上に厳しい旅路となる事は間違いない。
出発前の一日、一行はフラットラグーンの酒場で英気を養っていた。

「はははははは! まだまだ飲めるぞ! どんどん持ってくるがいい!」
「もう、デーリアさん! 作戦会議を詰めるんじゃなかったんですか!?」
 
宴は夜明け前から始まり、丸一日を掛けて行われた。
勝つにせよ、負けるにせよ、総力戦に備えるのはこれで最後。
出し惜しみする必要はない。
クロトは財布の紐を緩め、大盤振る舞いしていた。
 
やがて、飲み食いをひとしきり済ませた一行は馬鹿騒ぎを終え、各々、長い一夜を思い思いに友と語り明かしていた。
 
「余裕を見ておいて正解だったな……」
 
「まったくだ。 ビッグボスなどと名乗るだけはある、大したタマだ」
 
テックハンター達の見積もった猶予は、約半年、と言う事だったが……
レットとクロトは、そんなに余裕は無いと見ていた。
 
エルダーの手による広域洗脳支配の影響は絶大だった。
無数の奴隷労働者を得て、彼らの燃料生成プランは予定以上に進行を早めていた。
 
もう、明日にもZ-レイは再び起動するかもしれない。
たった一日の宴会が、今日この時が、最後の休息。
明日には発たねばならない。
 
逃げ隠れし、力を蓄えるる時は、終わりだ。
 
「逃げ隠れする事しか出来なかったオレ達を、我が主が「戦力」にまで仕上げてくれた。
 サヴァンには済まない事をしてしまったが…… オレは、救われたよ……」
 
「転換の日、Z-レイ、弱体化現象、ゾムネジア……
 あれがもう一度、より強い力で照射されれば、世界は終わる……
 なんとしても食い止めねばな」

また一杯のグロッグを飲み干し、吐息を漏らし、デーリアは話題を変えた。
 
「思うのだが……
 結局は、オレ達がゾムネジアで忘れてしまった物は、同じだったのではないか?」
 
「心の重荷を、都合よく忘れてしまう症状、か……」
 
「結局オレは、敬愛していたはずのサヴァン少年の事を、心の奥底では重荷に感じていたのかもしれない……」
 
「フッ、猪突猛進して死に急ぐばかりのお前は、闇に潜んで時を待つ天才少年との相性が悪かったのだろうよ。
 まあ、私も人の事は言えた柄では無かったという事だがな……」

デーリアの言葉通り、結局リドリィのゾムネジアは「主君への信頼の喪失」だったのかもしれない。
 
症状に時間差や程度の差が見られる事は、これまでの経験で分かっている。
リドリィもまた、肉体が一度衰えている。何らかの症状を患っていたのは確かだろう。
 
「情けない…… 今の私は、ボーンウルフ一匹相手にも苦戦してしまう程に……」


「我が主のお陰で鍛えられ、オレは幾らかマシだが……
 それでも、南東派閥の精兵と対等に渡り合えるかどうか……」
 
「それでも、行くのだろう? お前達は」

 
「ああ。一人も抜ける者はいなかった。全員でそう決めた。
 文字通りの総力戦。 この町を捨て、全員で東へ向かう」

かつて魔境で戦った記憶を思い出した2人には、この戦いが無事に終わるはずがない事が予め分かっていた。
 
いや、2人だけではない。
おそらくは、特務隊全員が理解しているはずだ。
 
 
 
 
「籐の傘ってのは、酸性雨を防いでくれるのはいいが、嬢ちゃん達の可愛い顔が見えづらくなっちまうのが問題だよなぁ……」
 
「背が低くて良かった…… 傘のお陰で貴方からジロジロ見られなくて済むものね」
 
「フフ、ブロージオ様、昔とは随分と印象がお変わりになりましたわね」

「ほら、私達浮浪忍者って、もっと相手を立て、気分良くなって頂けるようにと教わって来た訳でしょう?」
 
「ああ…… そうね。
 もう、クロト様…… クロト達は、そんな気遣いをするような相手ではなくなった、という気は……」
 
「なんだかんだ言って傘取ってくれるブロージオちゃんも、ヤノルスちゃんも、モムソーおじさん大好きだなぁ」
 
「傘被ったままじゃ食べにくいだけです!」

モムソーも、復讐を忘れた訳ではない。
今でもクロトの婚約者、ビッグ・ボスの事を殺したいと思っている。
この男こそ、と信じたクロトへの義理が先に立ち、努めて今は忘れるようにしているだけだ。
 
(生きて帰ったら結婚式、か……)
 
生きて帰ったら、か。
殺るにせよ、殺らんによ、この俺自身生きて帰ったら、その時考えればいいって事か……

この俺なんかに長生きする資格はねえが、この嬢ちゃん達を死なせたくはねぇな……
俺達前衛が盾になって守れりゃいいが……
 
スワンプ流なんてモンに拘らず、俺も重装に切り替えとくべきだったか?
いや、今更だ……
俺はコレが戦いやすい。
大親分の魂が残る、この立ち姿で戦い抜く……
 
「あら? ヤノルスさん、貴方、それ……」
 
「モムソー様、目を保護するために時々ゴーグルを掛けていらっしゃるでしょう?
 私達射手も砂嵐は天敵だと思いまして…… どうです? 似合います?」

「ぶっははははは!
 ヤノルスちゃん、おめぇにゃ大人用のゴーグルじゃ合わねえだろ!」
 
「・・・・・・・・・」

「お前、可愛がってるつもりでソレ言ってんだったら、認識改めろよ……」
 
「うへ…… す、済まねえ……」
 
からかったつもりが、本気で怒られそうになり。
モムソーは慌てて謝る。
 
と、ガヤガヤと別の団体客が酒場に入って来て、皆の気がそちらに逸れ、モムソーはホッと胸を撫で下ろす。

「あら、家畜屋さん」「遊牧民の方ですね」
「ほーん…… ヘヘッ いいこと思いついたぜ」
 
 
 
 
「もう私達が守る必要は無いみたいね」
 
「一番背格好がクロト様に近いからと、お側に付けた思惑……
 大きく外れてしまって残念ではあるけれど」
 
「ええ」

「ハブの町で燻っていただけの私達が、今はこうして仲間達と笑顔で飲み交わしている……」
 

 
「他人の心の隙に付け込む事ばかり教わってきたあの子が、なんて、幸せそうに笑うのでしょう……」

「いなくなったスタヴァの分まで、私達であの子を幸せにしてあげなくちゃね……」
「ええ……」
 
 
 
 
「なんだか、私達には居づらい空気ですね、お姉様」
「ああ」

特務隊・本隊であるクロト隊における一番の新入り。
リラとリリーの姉妹は、まだ彼らの間に存在する気心の知れた戦友同士の空気に馴染む事が出来てはいない。

 
そっと宅を離れ、酒場の屋上へと上がる。

「本当に大変なのは、危険なのは、私達新兵だと言う事を……
 あの方は、クロト様は、もう、分かっていて、それでも……」
 

 
「怖いか」
 
「はい。
 でも、お姉様……
 私達はまだ、少しはマシです。
 直接クロト様の指揮の下で戦う事が出来ますし、いくらか実戦経験を積む事も出来ていますし……
 でも、数十人の新兵達は、もっと、ずっと、脆くて、無謀で……」
 
「分かっていて、それでも、だ」
 
「はい……」
 
リラは、心優しい妹の頭を撫でた。
 
弱者である自身が、より弱い存在を思いやる。
それは、クロト隊が育ててきた暖かな気風だ。
リリーは、この部隊に相応しい。
 
もっと早く出会いたかった……
 
勇気と優しさを兼ね備えた、幼い命達。
その、容易く消し飛ぶ小さな灯火達の事に目をつぶってでも……
やり遂げなければいけない使命が、明日、眼前に迫り来るのだ。
 
 
 
 
 
「皆の所に行かなくていいのですか? 先生。
 私に遠慮する事はありませんよ……」
 
「なに、私も君と同じでね」

 
「同じ……?」
 
「私は、サヴァン君よりもっと、ずっと、罪深い男なんだ。
 あんな、変わり果てた彼を見て……
 平気でいられるほど、強くはないんだよ……
 もう、衰えた今の私の技術では、彼を救うことも……
 モムソー君すら、私の施術を拒んでおるのだ……
 私に出来る事など、もう、な……」

「知らなかった、いいように利用されていた、それだけでは済まない。
 ダウレット公やカリヴァン教授のように、私もあの時殺されていれば良かったのだ……」
 
「でも、貴方がいたから、レットは生き延び、スワンプに希望の火が灯されたんです。
 貴方がいたから助かった命も、何人もいたはずです」

「それ以上の数、臓器を切り取るために殺して来ただろう。
 私も、君も」
 
「そう…… ですね……」

 
クロト達と宅を囲む資格が無い。
だから、似た者同士、ドクター・チュンになら、少しは甘えられるかと思った。
 
だが、彼はそんな傷の舐め合いを受け入れるような甘い男では無かった。
優しさに溺れる事をも拒絶する、彼の矜持。
それを穢す訳にもいくまい。

意味もなくなめし革を作る作業を続けるドクターを置いて、エリーコは一人風に当たりに出かけた。
 
 
 
 
 
 
「確かに、これは凄い物、のようね」
 
「フラットラグーンでも滅多に入荷しない「傑作」だって。このタイミングで手に入って良かったよ」
 
「でも…… 私に気を遣ったのなら、それは余計なお世話というものよ?」

 
「もし、まだこの足の事で、あの日の事で私に負い目を感じているのなら……」
「それも、無いではないけどね」

「君は、もう、クロト隊最強の切り札なんだ。
 だから、一番いい義足を使って欲しい。
 そっちの方が大きいよ」
 
「ふぅん……」

「エルダーと言うスケルトンは、刀の刃が通じる相手じゃないはずだ。
 ホーリーネーションのように機械を叩き斬る事に特化した武器を数多く備えてもいない。
 君とグリーン、一撃必殺のスプリングバット使いが勝負を決める鍵だと……
 僕は、そう考えているんだ」
 
「責任重大ね……」

酒場の片隅でガタガタ震えていた私が、世界を救う鍵、か……
それも悪くない。
 
どれだけそれが無謀な賭けであったとしても、彼にそう思われているのなら、私は、立派に格好をつけて見せよう。
今、この戦力で……
 

 
私とクロト。
この二本の刃で。
 
この星を統べる神になろうとしている邪悪に、どれだけ喰らいつく事が出来るのか……
確かめてやろうじゃない。
 
 
 
 
 
 
 
「これが最後のチャンスだよ、ミウちゃん」
 
「またそんな子供扱いして…… ハムートったら」
 
「君はまだ子供だよ。 もっと我儘に振る舞ってもいいんだ……」

 
「いいのよ。
 今ここでワガママになったら、今ままでの涙が全部無駄になるんだから……」
 
「そういう物かね…… 後悔は、後で悔いるから、後悔と言うんだぞ」
 
「そこまで言うなら、ハムートが私にもっと優しくしてくれればいいのよ」
 
「そ、それは……」
 
本気ではない。
困らせたかっただけ。
ハムートにも、クロトにも、心を占めて動こうとしないひとがいる。
 
私は、どこに行けばいいのだろう……
 
 
「ふぉふぉふぉ、邪魔するぞい」
よっこらせ、と、遅れてきたホッブズがようやく席につく。

「新人さん達を取りまとめるのも大変そうだね、ホッブズ
 
「身体の調子は大丈夫なの?」
 
「なに、もう内蔵がボロボロになっとるはずのモムソーの奴が、ああやってヤセ我慢しとるんじゃ。
 ただ年を取っておるだけのワシが音を上げるワケにゃいかんじゃろ」
 
「特務隊って、ホント損な性格してるのしか揃ってないんだから……」
 
「ハハハ! それを君が言うかい、ミウちゃん!」
 
「まったくじゃ……」

 
老兵とて、あの若者達よりはマシな戦闘力を有している。
素人に棒振り訓練を施しただけで戦場に送り出すのだ。
せめて、支度は万全に整えておいてやりたい。
老骨に鞭打ってでも、それくらいはやっておかなければ……
あの世で合わせる顔が無いという物だ。
 
「と、言うワケで、若者は青春しとるワケじゃが!
 お前さんがたの方はどうなんじゃ?」
 
「?」「誰の事だ?」

「カカカカ! 馬、デーリア、無論、お前さんがたの事じゃよ!」
「は?!」「なんだと!?」

「吾輩が!? 何故そうなる!」(いや、確かに乳はデカいが……)
「オレがなぜこんな中年と!!」(隊のシェクの男では最強、か……)
 

 
思ってもみなかった、という驚きの顔。
だが、頬を赤らめて必死に否定し始める様子を見ると、互いにまんざらでもない様子。
ホッブズ会心の笑みを浮かべる。
 
(してやったり、じゃ!)
 
長く共に戦い、背中を預け、阿吽の呼吸で互いを守った仲だ。
きっかけさえ出来れば、後は自然と事は上手く運ぶじゃろうて。
 
 
 
 
「やっぱり、浮浪忍者の子達からすると、眩しくて近付きにくいみたいね」
「うう…… クロト君…… ほとぼりが冷めたらお姉さんと浮気しようねぇ……」
「ハァ…… 俺にツッコミ役やらせんのも、もう大概にしてくれよな……」

ピカリング、カイネン、パスクリの三姉妹も、なんとなく、彼らに近づき難いものを感じていた。
 
それが善意から来るものであれ、真相の一端を掴んでいながらクロト達に知らせずに来た自分たちの負い目、というのもあったが……
不老忍者として、愚かで邪悪な男達を手球に取り、地獄に送り続けてきた、呪わしきナルコの子らが、純真だったクロトを戦いの道へと引きずり込んでしまった……
その後ろめたさの方が、彼女たちを強く戒めていた。

「ウン…… グスッ…… あの子達は、幸せにならなきゃいけないよね……」
「ああ。 呪われた時代を終わらせ、光の時代が来た時、あいつらはソコにいなくちゃいけねぇ」

「世界を滅ぼす悪魔を討つ。
 それが本来のオクランの民の教義さ。
 パラディン共がそれを忘れたって言うなら、アタシ達がそれをやってやる。
 最高の意趣返しじゃないか!」

騎士を、司祭を、審問官を、奴隷商人を、豪商を、貴族を、たぶらかし、騙し、堕落させ、破滅させてきた。
それは…… 意義ある戦いであっても、天に誇れる仕事ではなかった。
 
腐らせるのではなく、戦って勝ち取る。
勝利。
 
衰え果てた不老忍者の総力で、それを掴み取る事は出来るのか……
 

 
必ず、勝ち取らねばならない。
この星の未来のため、だけではない。
あの子達の笑顔のためにこそ、だ。
 
 
 
 
 
 
「特務隊最後の戦い……
 つまり、私達にとって最初で最後の恩返しの機会という事です!」
ホッブズ師匠やカリン師匠に恥ずかしくない働きをせねばな!」

グエリとチャドと言う訓練教官の下、ホッブズ隊・隊員各員の必要最小限の訓練が終わっている。
 
本当に、必要最低限の物でしかない。
弾幕によって敵を怯ませる事のみが求められているのだが……
 

 
かつては達人だったチャドも、新人達の中では比較的経験を積んだ方であるグエリも、実戦に耐え得る身体能力を取り戻せてはいない。
 
チャドにはよく分かっていた。
状況次第では、自分達が使い捨ての手駒にしかなり得ない事を。
 
 
 
 
 
 
「我らシェク戦士が新兵達に遅れを取る訳にはいかんぞ!」
「「「オウッ!!!」」」

「あやつらの笑顔を見ていると…… やはり、不憫でならぬ」
 
「私達では武器までは作れないからな…… 仕方のない事だ」
 
「だが、我らが鍛錬は、この日のためにあったと言える」
 
「ああ。 防具だけは、ほぼ「傑作」で揃える事が出来た」
 
 

 
戦場に生きる道を選ばず、防具職人として仲間達の力となる道を選んだ、カンとルカ。
彼らも、その部下達も、町の外で戦う事が無かった者達だった。
スワンプを横断する時にも、ギリギリの戦いを耐え抜かなければならなかった。
 
ほとんど戦闘経験を積んでいない隊員達と比べれば、エレマイア達スケルトン三人組と共に、スクイン近くの鉱床で鉱夫業を続けて来たJRPGの2人、フェルンとドリルの方がまだ戦闘経験を積んでいる方だと言える。
 

 
経験不足の前衛戦士ばかりのスクイン隊を、彼女たちの弓が支える事で、戦力を活かす事が可能なのかどうか……
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「お前、チビだな! 今日からお前はアタイの子分だ!」
「なんだとこのトゲトゲ! 角がなけりゃ大差ないだろ!」
「もう、やめなよふたりとも……」

新人達の中でも飛び抜けて幼く小柄な三人が集まり、何やら言い合い始めている。
 
JRPGと、シェクと、グリーンランダー。
生まれ育ちは違っても、目指した星は同じ。

世界を救う特務隊。
若き英雄クロトの率いる、正義の侍部隊。
その一員として、立派に働いてみせる事。
 
ほとんど訓練器具を相手に練習をしただけの、まるっきりの新兵。
 

 
町に侵入してくる獣相手に、おっかなびっくり矢を放った事がある程度の子供達が、なけなしの勇気で明日という日を迎えようとしている。
 
「ほら、喧嘩ばかりしてると、ああいう悪い大人になっちゃうんだから!」
「うっ……」「あれは、ヤダなぁ」

麻薬と暴力で金を巻き上げて生きるハウンズ達。
それは、子供達にとって悪いお手本だった。
 
「喧嘩なんてしてちゃ、本隊入りなんて夢のまた夢よ?」
 
「ああ!
 あたしだって腕を磨いて、リリーみたいにクロト様のお側で働けるようになってやるんだから!」
 
「仲良くして、力を合わせて生き残る。
 それが、師匠の教え、だよな……」
 
「いい事考えた! 私達も、姉妹になりません?」
 
「ハァ?」

会ったばかりで、種族すら異なる少女達が、互いを姉妹と呼び始める……
それは、子供のごっこ遊びのような物でしかなかったが……
あるいは、世界の未来を映す象徴的な光景だったのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
「はーっ! 大したモンやな! 流石はテクハンの総本山や!」
「味もいい、歯ごたえもシャキシャキ…… 拙者達の水耕栽培ではこうはいかんな。
 まだまだ修行が足りんか……」

「バタバタした、目の回るような数ヶ月だったけどな……
 ずっと、ずっと、耕して、料理して、皆を腹いっぱい食わせたる、ただそれだけの毎日が、なんちゅーか……」
 
「充実した日々だった」
 
「せや」

こうして畑から離れ、遠くから眺めていると、作物の心配ばかりしてまう。
あの毎日の暮らしから離れなければいけなかった事に、辛さが無いではない。
 
「拙者は、故郷の皆を裏切ってしまった罪を背負っている。
 世界を救いでもしなければ、この帳尻は合わせられん」
 
「クロトはんのお陰で、安全なトコで、ずっと好きな事して暮らしてこれたんや。
 ここでバシッと格好良く恩返してみせんとな」
 
「ああ。
 ロクに剣を握る事もなくなってしまったが……」

「拙者の」「ウチの」
 

 
「全力を尽くして……必ず!」
 
「必ず帰るで、あの暮らしの中にな!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうだ、弟よ。似合うだろう? ニンッ!」

 
「おお、兄者。 忍者装束でヒゲが隠れると若返って見えるでござるよニンニン!」

 
「我ら」「イケメン」「「忍者兄弟!!」」
 
 
「何をやっとるのだ、あいつらは……」
 
村人を騙し、忍である事を隠して生きる重責から、歪んだ自己主張をするようになってしまったアイメルトとトゼッリの忍者兄弟だったが、もうそのゾムネジア症状も解消され、変な語尾を付ける必要も無くなったはずなのだが……
クセになってしまったか。
 
里での対ゾンビ戦と、新人スカウトの旅で、ある程度の場数は踏んで来た。
 

 
部下達の手前、先輩としてもうちょっとシャキッとしていて欲しいものだが……
そんな事だから、可愛い後輩達の女心にかすりもしないのだ、と、スヴェアは溜息をつく。

 
元々、不老忍者の里は、ホーリーネーションの男どもに酷い目に遭わされてきた女達が集まって出来た隠れ里だ。

男嫌いで、女同士で愛を育む者も珍しくはない。
こんな事では未来が危ういではないか、と溜息をつきながら……
ふとスヴェアは、あの日の…… 誇り高き女の、涙で震えていた背中を思い出す。
 
まあ、あいつにこちらと顔を合わせる気が無いのなら、仕方ない。
生き方が違うという事だ。
 
 
 
 
 
「お前らは、忍者のトコに戻らなくていいのか?」
「ええ」「もう、私達は反奴隷主義者の一員ですから」
「……!!」
「分かった分かった、そう不機嫌な顔すんなって……」

多数の新人を抱え、エリス隊も随分と頭数が増えた。
もう、長い間クロトと離れていたはぐれ者部隊として振る舞う訳にはいかない。
一軍を預かる武将としての振る舞いが求められている。
 
(まったく、こんなブサイクな俺なんかにゃ、不釣り合いな美人がよぉ……)
 
 

 
殴られて、倒されて、その度、意地で立ち上がってここまで来たんだ……
あんたの分まで、俺は戦い続ける。
だから、見ていてくれ……
 
バックパックに手を添えると、勇気を貰える。
そこには、愛した女の残した鎧があるのだから……
 
 
 
 
 
 
「いいのかい? アンタぁ、アタイらの空気にゃ馴染まないと見てんだけどサ?」
 
「構わん。好きにこきつかって、私を鍛えてくれ。
 一匹狼を気取っている間に、すっかり実戦経験の感が鈍ってしまった……」
 
リドリィが選んだ部隊は、グリーム隊…… ハウンズだった。

「クケケッ! んじゃま、遠慮なくバリバリ働いてもらうとしようかね!
 なんたって、奴ら第二帝国が操るトレーダーズギルド、その権益をまるっとアタイらで総取り出来るってんだからね!」
 
おお、と、部下達がどよめく。
 
「もう、弱いものイジメしてケチくさい稼ぎをする必要はねぇんだぜ!
 堂々と、表の商売でがっぽり稼げるようになるんだ! ハシシ臭い暮らしとはオサラバしてねぇ!」
 
陽の当たる場所へと、胸を張って出ていく事が出来る。
その清々しさを胸に……

グリームは奇妙な違和感を感じていた。
 
(なんだ……? この不快感は?)
 
愛用の帽子を取り、自慢のモヒカンに風を通す。
頭を覆うモヤは、それでも晴れない。

(チッ…… 大一番が控えてるってのに、アタイらしくもねぇ)
 
クロト達歴戦の特務隊と比べ、ゾンビの死骸ばかり漁って稼いできた自分達には、戦闘力が足りていない。
 

 
センチメンタルになっている場合ではない。
既に、スワンプからガルトナーに向かう途上で、可愛がっていた部下を一人失っている。
あんな思いはもう沢山だ。
 
お天道様に顔向けできないような生き方をしようとも、生き延びてこそ笑えるのだから。
名誉だ、正義だ、そんなものは侍どもに任せておけばいい。
 
 
 
 
 
「100万点。
 この巣は、失いたくないものです……」
「同感だ」

女王を、仲間を、共同体を、全てを失い、孤独で無力な放浪者と成り果てた……
あんな思いは、もう二度とゴメンだ。
 
「ぱぱ!」
 
「んんん……?!」

決意を新たに夜風に黄昏れていた所に、思わぬ闖入者が現れた。
 
「はぐれろ、ぱぱのため、がんばる!」
 
「パパ…… だと……!?」
 
プッ、クスクスと、シルバーシェイドが堪える事が出来ず、吹き出している。

「そうかそうか! クイーンを失って、新たに仕える主は、父親でありますか!
 2億点!!!!」
 
「クッ…… ならばお前はママという事になるだろうが……」
 
「まま! しぇい、まま!」
 
「ぁああぁ~~~~~~~~!?」
 
「採点はどうした、シェイ」
 
「ぱぱ! まま!」
 
ここでもまた、全くの他人同士による「家族」が生まれていた。
 

 
苦闘の果て、辿り着いた新たな「ハイブ」。
クロトとその仲間達こそが、我らの巣なのだと……
彼らは改めて思い知らされる事となった。
 
どうか、この共同体の明日に、安寧と発展のあらん事を……
 
 
 
 
 
 
 
「まさに、必死だな! コメディだ! ジョークだ! 最高の笑いを提供してくれる!」
「モムソーと言う、あのスワンプのヤクザの思いつキラシイ」
「ヤレヤレ、オチルトコロマデ落ちた、という気もしますが……」

「隷属する種を消費して利益を得る。
 それが彼ら人類の歴史であり、我らスケルトンの歴史でもある。
 人が家畜を使う事にそれ程の違和感は無い。
 むしろ僕は予定調和さえも感じざるを得ない。
 ただ一つ滑稽なのは、生まれたての家畜までもを戦力として数えようとしている事だろうか」
 
「アグヌ!!」

「それ程に、彼らは無力なのだ。
 確かに、100人に及ぶ軍を率い、意気は上がっている。
 だが…… その全員が生きて戻れるなどどはまさかあのクロトが考えてはいまい。
 捨て駒とするなら、人より畜生の方がまだマシ……
 モムソーの思いつきも、クロトの心理的負担を軽減するのに役立つ事だろう」

 
ケルトンチームの全員が、対洗脳処理を終えていた。
 
ドクターが開発し、サヴァンが完成させた秘術、Xセル・コーティング。
その結果として、ついにコスチュニンは発声機能を完全に修復させる事に成功していた。
 
エレマイア達も修復を終えているようだったが、彼らは不具合を起こしていた間の口調を「個性」として気に入っているようで、改めようとは思わなかったようだ。
 
Z因子がスケルトンにまで及ぼした、弱体化現象。
その影響から未だに立ち直れてはいなかったが……
 

 
それでも、クロトと共に、仲間を守るため、並んで戦い抜いた日々が、彼を隊内随一の使い手へと成長させていた。
 
人間のあがき。
見苦しく、滑稽で、最高に胸躍る、このちっぽけな小惑星上で開催される、最大にして最後になり得る一大ショー。
それを、最前例の特等席から見届ける。
 
私はエレマイアやベッカムのように冷笑はしない。
バーンやサッドニールのように諦めてもいない。
 
私は、人類という最高の娯楽を、明日から先も、ずっとずっと楽しみたいのだ。
 
 
 
 
 
 
決意の宴が終わる。

98名の戦士と、10匹の獣。
特務隊の総力を結集した最終決戦が始まる。
 
 
 
 
<続く>


設定:ダメージ2倍
縛り:展開にそぐわない行動は取らない(犯罪行為等)
注意:当ブログの記事内の設定はKenshiの公式設定とは異なります