気刊くろみつタイムス

主にゲームプレイ日記。過去記事一気読みは「目次」からどうぞ! ※他ブログからのインポート引っ越し時に改行崩れ&画像消滅が発生しています。

#Kenshi ZA-19:スワンプ編④

ロット村を発ち、マッドタウンへ……
その途上も、世界の滅びはその片鱗を垣間見せる。

「静かに…… 偵察して来ます」
前方に、すっかり聞き慣れてしまった異音。
ゾンビが骨ごと死肉をむさぼるガリガリバリバリという音。
クロトは気配を殺し、遥か前方へと目を凝らす。

立てた一本指。 続いてOKサインからの手招き。 そして、親指を下に向けた合図。
敵は一体。 状況良し。 総員前進。 攻撃開始。

新人も増えた。
こうしたはぐれゾンビを相手に、経験を積める機会を見つけては積極的に実戦をこなしていかねばならない。
だが、敵が一体だけとは限らないのが奴らの怖い所だ。
はぐれた一匹を始末し終えると、更に遠方で無数のゾンビが暴れ回っている事に気付いた。

戦っている相手は、沼地の野生生物、ラプターと……

何やら、見慣れない緑の衣を身にまとった一団。

「あれは、吾輩も知っておる。「スワンプ忍者」だな」
「どういう組織ですか?」
「ストーカークランに属した盗賊団、だが……」
「ええ、今ではスワンプの協定から離脱。独自に活動しています」

その結果が、これか。
ハウンズに従うを良しとせず、独立したばかりに、援護を得られずに死ぬ。
相手が麻薬組織であろうと、手を組まねば生きて行いけない。
世界は、こうも変貌してしまったのか。
 
「ぐえぇ! 口に入った! 本当にこのルートでええんじゃろうな!」
「ああ、これが最短ルートだ!」

ザブザブと沼を掻き分け、泳いで対岸を目指す。
敵わぬ敵に遭遇した際、水中に逃げ込むのが基本原則ではあるが……
この泥混じりの沼に身を浸す不快感はいかんともし難い。
が、苦労して泳いだお陰で、敵に襲われる事もなく、思っていたよりずっと早く着く事が出来た。
ここが、犯罪組織「ツインブレード」が取り仕切る町。
マッドタウンだ。


第二部:スワンプ編④ マッドタウン

マッドタウン。
その名の通り、町の中まで泥の沼が侵食した、悪臭漂う町。

人身売買を生業とする危険な犯罪組織、ツインブレードの支配地。
クロト達は緊張してその門に近付くが……
スワンプ全域を牛耳るハウンズと既に話を付けている。
門番達はすんなりとクロト達を通してくれた。
が、平穏無事の到着とはならない。

町を訪れて早々、ゾンビの襲撃が発生。
が、この襲撃は小規模で、クロト達の出る幕も無く戦闘は終了。
門番をしているのは自らを「スワンパー」と名乗る自治組織。
似たような風体をしているが、ハウンズとは別組織扱いらしい。

彼らと話し、この町でも、ゾンビ処理を行って良い、との許可を得る。
残る問題は……
スワンプに存在する諸勢力の中でも、最も危険と言われる、彼ら「ツインブレード」との交渉だ。

雑貨屋は…… 食料を取り扱っていない。

店主がしきりに勧めるハシシを断り、幾つか包帯を購入して立ち去る。
この町には大きな酒場が2つある。食料の仕入れなら、こちらだろう。
どちらが美味い酒を出すか飲み比べだ、と、ホッブズは満面の笑み。

「クソがぁぁっ!! 今のが俺の全財産だぞ!!
 どうしてくれんんだよ畜生ーーーーーッ!」

「お客さん、貴方は全てを承知の上で誓約書にサインをしている。
 全ては規約通りに進めますよ」

「ま、元気を出しなさい。
 次の機会には運が向いて来る事でしょう」
「クククク…… 金が用意出来なかった場合は……
 分かっているだろうな?」

「ククク……」「ケケケケ!」「イヒヒヒヒヒ……」

「何ですか、あの怖い人達は……」
「あの武装したハイブは、「ブラックシフター」。
 スワンプの賭場を取り仕切っている連中だ。
 ツインブレードとは切っても切れぬ仲の、な」
怯えるダルパンに、スワンプに詳しいスヴェアが解説する。
「と、言うと?」

「まず、ギャンブルに全財産を賭けるような馬鹿を見繕って金を絞り取る。
 支払いが滞れば、連中は暴力に物を言わせ、客に借金を迫る。
 で、スワンプの最下層民、借金漬けの労働者がまた一人増えるって寸法だ」
「薬物によって幸福感を与えるイッポウデ、ギャンブルによる刹那の興奮ヲアタエル……」
「シアワセを餌にして、他者を奴隷とするシステム……
 ナルホド、よく出来ていますね」
「くれぐれも、薬と賭け事には手を出さん事だ。
 特にお前だ、グリーム」
「ヘッ、分かってるってーの。
 アタイが興味あるのは儲け話。
 イカサマギャンブルなんかで他所者が儲けられるワケないっしょ!」
「でも、その賭博組織がなぜ、ツインブレードと切っても切れぬ仲、なんですか?」
「分からんか、クロト殿。賭博屋が財産を毟り取り、生きていけなくなった者は、身を売る他無くなる訳だ」
「あ、あぁ……」
「契約書を交わして借金漬けにし、人身売買で都市連合に奴隷として売り捌く。
 よく考えておるものだ…… 胸糞は悪いがな」
「話はもっと…… いや、よそう、食事の前にするような話ではない。
 ホッブズ殿も美味い酒を飲みたかろうからな」
「配慮に感謝、じゃ」
一軒目の酒場は賭場として使われているらしく、食料を買い入れる事は出来なかった。
一行はすぐに二軒目へと向かう。

「おほっ! 賭場と違って、こちらは活気があるのぉ!
 ようやく酒が飲める!」

クロト達が食料を仕入れる一方で、ホッブズは早速カウンターに駆け寄り、一杯目を注文する。
「む…… 何かと思えば、噂の弱者の群れか」

忌々しげに舌打ちするシェク人の女性。
「なんやアイツ、感じ悪いな」
「あれは…… 外交官だな」
「ホホウ、一目で分かるものですか」
「身なりが良い割に、筋肉がついていないシェクらしくない体格。
 あんなナリで悠々としてられるのは「調停者」様くらいだろう」
「勉強になります、スヴェアさん」
酒場をグルリと見回し、スヴェアは人物評を開陳する。
「あちらの一団は揃いの装備からして、傭兵だろうな……」

「ハイブプリンスが裸同然で暇そうにしている。
 あれは賭け事で全財産を失い、奴隷同然の労働者となった輩か」

「あちらで座って震えているヤツは、麻薬中毒者だな。
 薬を買う金も無くなり、禁断症状に耐えているのだろう」

「おや、あそこに座っているのは…… 破産したスケルトンとは珍しい」
「ホホウ、あれは…… コンナ所で出会うとは」
エレマイアとベッカムが席を立ち、酒場の隅に座り込んだスケルトンに近付いていく。

「管理官コスチュニン。こんな所で何ヲシテイル」
「・・・・・・・・」

「驚愕」
「ンン?」 「どうシタ?」
「不具合--言語」
「お前もAIコアにガタが来てシマッタカ」
「ゴアンシンヲ、今直結します」
エレマイアとベッカムが頭部からワイヤーを伸ばし、三人は有線通信モードに切り替える。

<ナルホド、人類社会の生み出した闇から逃れた者達を匿う新たな楽園とはいかなる物か、君はそれを確かめに来たのですね>
<ところが、奴らはその底辺の人間をいいように操り、さらなる搾取を行ッテイル>
<ギャクサツ、ドレイ、そういった最悪のシステムより幾らかはマシではあるものの……>
<諦観--悲壮>
<ああ、実に残忍なシステムを構築したモノダ>

<警告--警告>
<ああ、分かっテイル。長居をするつもりハナイ>
<キミモトモニ来ますか?>
<承諾--歓喜

絶望した労働機械 コスチュニン
エレマイア、ベッカムに続き、コスチュニンが人間観察の旅に加わった。
そんな三人の無言のやり取りが続けられていた一方、クロト達は食事をしながら酒場を眺め、スヴェアの人物評を聞き続けていた。
「……で、スワンプ博士のスヴェア先生としては、あのおっさんはどう見るんだい?」
「ふむ、難しいな。
 清潔感のある身なりで、暮らしに困っている風でもないが、あのおどおどした様子……」
「!!?」
ガタッと、クロトが席を蹴って立ち上がる。
「先生!!」

ドクター・ジョン!! ジョン先生っ!!」
「うん…… 私の事かい? ジョン……?」

「お忘れですか!? ドーセル……いや、スケイル村で、貴方の生徒だった、クロトです!」
「私はジョンなどではない。 チュンだ。
 ドクター・チュン。 少なくとも…… ここの者達は私をそう呼んでいる」

なんだって、と、一瞬怯むが、すぐにクロトは事情を理解する。
ドクター・ジョン、と言う名前は、ゾムネジアによって発生した記憶の損傷から来る間違いなのだろう。
村の名前を間違って覚えていたように、彼の名前も間違って記憶していたに違いない。
「失礼しました、ドクター・チュン。
 それでも、僕の事は分かりませんか? 故郷の北スケイル村がどうなったのか、心配で心配で……」
「すまない…… 私も「転換の日」以来記憶をやられていてね……
 過去の事が殆ど思い出せんのだ。
 幸い、形成外科医としての私の腕は以前と変わらず天才的……らしい。
 こんな場所で、こんな状態で、それでも仕事があって助かっていたのだが……」

「ツインブレード…… あいつらは、いかん……
 奴らの脅迫が続き、リペアカッターもセルインジェクターも奪われた。
 もう続けられん……」
「なぜ仕事を邪魔されるんですか?
 犯罪組織としては、顔を変える技術を持つ先生は必要な人材なのでは?」
「おお、知らんのか。
 奴らの取り扱う商品は、奴隷ではない。中身だ」
「中身?」
「臓器だよ…… 若く新鮮な臓器を、貴族の交換用パーツとして高く売っているのだ!
 ああ、ああ、恐ろしい事だ!!」

「奴らは……ツインブレードは……
 手術中の患者の意識が無いのをいいことに、内蔵を抜き取って行ってしまうのだ!
 ああ、ああ、耐え難い! あんな事は、もう二度と!!
 幸い、ゾンビの蔓延によって、助かる見込みの無い者達が次々運び込まれ、奴らに渡す臓器には不自由しなくなっていたが……
 近頃はゾンビ討伐も進み、「新鮮な犠牲者」が足りん……
 こうなればいっそ、奴らの顔面に拳を叩き込んで……」
彼の精神は不安定なようだ。
発作的に立ち上がり、虚ろな目で拳を握り、周囲をキョロキョロと見回し始める。
エリスのように、記憶障害が精神・人格にまで影響を及ぼしているタイプなのだろうか。
このままでは何をおっ始めるのか、分かったものではない。
(ダメだ! 先生を死なせる訳には!
 もう、こうなったら!)
「先生。僕らと旅に出ませんか」
「町を、出る……? 出られるのか?」

「ハハ! それはいい! 腕のいい医者が消えれば、奴らも腹を立てるだろう!
 それはいい、痛快だ!」
それは、絶対に避けなければならない事態だ。
なんとか、金を積んででもツインブレードに「筋」を通しておかなければ。
危ない橋を渡る事になるかもしれないが、彼をここで失う訳には行かない。
「先生は、故郷の事を知る、唯一の手がかりなのかもしれません。
 それでなくても、先生は僕や、レットや、コネコ、エステバン達の恩師です。
 ここでツインブレードに歯向かって死なせる訳には行きません……
 なんとか、町を出られないか、彼らと交渉してみます」
「おお、おお! なんと優しい少年だ!
 勿論、そうしてもらえるとありがたい! 君について行くよ!」

すがりつくような目でこちらを見てくる、怯えた老人。
ドクター・ジョン…… いや、ドクター・チュン。
彼の記憶を取り戻すのが先か、直接故郷を目にするのが先かは分からないが……
故郷の今を知る手がかりが、ようやく見つかった。

真相を忘れた男 形成外科医 ドクター・チュン
厄介事を一つ増やす事になるが……
それでも、チュンを仲間に加えてからこの町を発つ事は、クロトにとって確定事項となった。
手短に仲間達に事情を説明し、クロトは酒場の一方、あるテーブルへと近付いて行った。
「話があるようだな、侍の少年」

「聞こうか」

ツインブレード幹部 「屠殺者」 トルチャ
 
男は、自らを屠殺者と名乗り、真っ直ぐにクロトの目を見据えた。
話の流れ次第では、その異名の通りの行動を取る、と、素直にそう思えるだけの冷酷な瞳。
だが、クロトもここまで旅をして来て、その眼差しがまだ本気ではないという事を感じ取れるだけの経験を積んできた。
少なくとも、交渉の余地はある。そう思える。
「この人は記憶を失っていますが、僕の故郷で教師をしていて……」
クロトは、最大にして唯一の手札、「真実」を惜しみなく切り、相手に全てを委ねる。
それこそが誠意。クロト最大にして唯一の武器だ。
「恩師を助けたい。その心意気は買おう。
 確かに、そいつの代わりになる外科医なら、そう苦労せずに見つかる。
 文句ばかりの役立たずは引き取ってくれても構わんが、 そいつはチョイと厄介事を抱えて……」
交渉は成立しそうだ。後は金額の問題。
悲しいかな、ここまでの旅で貯蓄は目減りしつつあり、食料の補充で手一杯。
しばらくこの地で働く事も覚悟しなければ……
「なんだ!? またか?!」
突然、鋭い警笛の音が響く。
敵襲の合図。

今度は少々数が多そうだ。
どうやら、少し北でやり過ごした団体が南下してこちらに向かってきたようだ。
だとすると…… 襲撃者は生半可な数ではない。
「話は後だ。
 掃除屋、お前達はお前達の仕事をして見せろ。
 働き次第では考えてやらんでもない」
「はい!!」
クロトは、特務隊全員に出動を命じる。
彼らの信頼を得るため、精一杯の仕事をして見せなければ!

幸い、と言うべきか。
襲撃の規模は予想より小さな物だった。
クロト達はいつものように、群れからはぐれたゾンビを斬り伏せつつ、スワンパー衛兵が倒したゾンビの臓物を引き抜き、トドメを刺して回った。

あちこちに散らばる死体をかき集め、処理場と定められた底なし沼へと沈めて行く。
こういったいつもの仕事で、ツインブレードから働きぶりを認められるといいのだが……
「協力」
「ああ、そうダナ。彼らは騙し合う一方デ、力を合わせる事モアル」

「協力--私」
「アナタモ、働きたいと?」
「お前を身請けする3000cat、クロトにとって結構な痛手だったヨウダカラナ。
 恩を返すタメニモ……」
「労働」
「おや、なんだい? スケルトンもヤクをやるのか?」

「労働」
「仕事が欲しいラシイ」
「ワレワレハここに来て日が浅い。ナニカ出来る事があるなら、知りたいのだが」
「ふむ、稼ぎは少ないが、おまえさん達スケルトンにピッタリの退屈な仕事ならある」

「鉱夫だ」

「コレガ人間社会に最も普及している労働か! コウフンするな!」
「ううむ、社会の基礎を支える資源採掘デアルカ! こうして人類は第二帝国を支エテイタ!」
「ロマン! レキシのロマンを感じます!」
クロト達が慌ただしくゾンビ処理に走り回る一方、スケルトン達はこつこつと労働を続けて行く。
そして、クロトは……
「見違えましたよ、先生」
「そうかね? どうも、私には滑稽に思えるのだが」
「生き残るためなら、見た目なんかどうでもいいんです。
 少しでもいい物を着ないと」

軽装の装備ですら、今のチュンには重さを感じる物のようだが……
今後の事を考えれば、筋力を付けて行ってもらわなければならない。
慣れてもらう他無い。
「我らにとって、邪魔者では無い。それは分かった」
一仕事を終えたクロト達の前に、屠殺者トルチャが姿を現す。
「だが、よく働く他所者…… それだけでは不十分だ」
「はい。 条件は、何でしょうか」

「上の許可が出た。2万catでその男の身柄を渡そう」
 
「はい」
 
覚悟はしていたが、やはり、相場の遥か上。
すぐに払える額ではないが……
手の届かない額でもない。
 
「すぐに払えとは言わん。利息も付けん。
 ただ、条件が2つある」
 
「何でしょうか?」
 
「一つは、チュンの身柄を他者に預けず、自身で面倒を見る事。
 手放すくらいならば殺せ。
 無論、我らの下に返したいなら、そうするといい」
 
「勿論、先生の事は僕が守り抜きます。
 ……もう一つの条件は何ですか?」
 
「チュンには叩き込んであるこの話。お前もよく覚えておけ」
 
「手術の事は忘れろ」

「何の事だか、分かるまい。
 だが、チュンがこの言葉の意味を理解するようになった時には……」
「手術の事は、忘れろ。
 分かりました。意味は分かりませんが、よく肝に命じておきます」
「これは、お前とチュンだけが覚えていればいい。
 他の者には漏らすな。
 無論、お前達が余計な事を口走った時には……」
「僕達は屠殺される訳ですね。
 ありがとうございます」
「そこで礼が言えるとは、小僧とは言え侍の端くれか」
どうやら、軽く笑ったらしいが、トルチャのマスクに隠された口元は見えない。
そのまま背を向け立ち去る。
当たり前だ。
礼も言うさ。
先生の口を封じておきたい何かが、彼の記憶の中に眠っている。
出された条件から、それがはっきりと分かる。
なのに、口を封じておきたい人間をなぜかずっと飼い殺しにし、こちらに預けてくれると言う。
訳が分からない。
ただ、こちらとしては感謝する他無い温情。
礼を言い、厚意にもすがろう。
「2万だ。
 早めにな」
去り際、背中越しにそう告げる。
2万くらい、安いもの。
そういう取引のはず。
信頼に応えるべく、クロト達特務隊は、その「収穫」を掻き集めて行く。

時にスワンパー達を援護して戦闘も行いつつ、着実に稼ぎを上げて行く。
噂の赤蜘蛛。
スワンプの代名詞、「ブラッドスパイダー」にも出くわした。

ゾンビ以前から存在する、高火力の害虫。
これを見落とすようだと沼地では生き残れない。
時に、衛兵の目を掻い潜り、町の中まで侵入して来ると言う。
今後も油断せず常に周囲を警戒しなければ。
ザブザブと沼地を掻き分け、ゾンビを始末して行く。

他人の嫌がる仕事を進んで行うクロト達の存在は、次第にスワンパー達に受け入れられて行った。
「お前はどう見る、シルバーシェイド」
「70点。
 かつては、どこにでもいた「お人好し」。そんな所でしょうか」

「どこにでもいる善人。 今やその言葉には矛盾があるな」
「ええ、はい。
 肉体的弱さは如何ともし難いものの、この時代にあっては稀なる資質かと」
「弱者の集まりではあるが、成長に期待は出来る。
 ……まあ、良かろう。 あいつらを呼んで来い」
「何でしょうか? 流石に、昨日の今日で2万はまだ……」
「そうではない。 今はそちらの……」
「トルチャ様!!」
「なんだ、今大事な……」
「敵襲です! 敵ゾンビ、多数!!」

「また邪魔が入ったか! 話は後だ。 死ぬなよ、貴様ら!」
「はい!」
ザブ、ザブ、
ザブザブ、
バシャバシャ、
ザザザザザザ……

泥水を蹴立てて、次第にその音は騒々しさを増す。
暗闇の彼方から、泥の下から、死者の群れが蘇り、町に迫る。
「徘徊してる連中だけじゃねえ! ありゃ、埋まってた死体も混じってやがる!」
「とんでもねぇ数だ!! 全員叩き起こせ! 総力戦だ!!」

鋭い警笛が響くと同時に、カンカンカンと鐘を叩く音が夜闇を切り裂く。
クロト達を置き去りにして、ツインブレードもスワンパーも、一斉に外へ駆け出して行く。
鼓動が早くなる。
嫌な汗が背中を伝う。
まただ。
また、あの「津波」が来る。
一度は防ぎきった。
テックハンターに大きな犠牲を出しながらも、守り抜く事が出来た。
今回はどうだ?
やれるか? スワンパーは、テックハンターより強いだろうか?
クロトは、迷いながらも素早く今自分達の力で何が出来るかを計算し始め、酒場の中に鋭く観察の目を向ける。
「俺達に期待されても困る。武器を背負っちゃいるが、戦える人間じゃない」
その眼差しの意図を知ってか、バーの店主はそう言って首を振る。

そこに、スヴェアが声を張り上げる。
「ここにもいるのだろう!? 転換の日以来、力を失って何も出来ないでいる弱者が!
 ……私もそうだった! そして、今と同じく、かつて、そんな弱者の前に恐ろしい数のゾンビが迫って来た!
 衛兵は倒れ、門は破られ、閉じこもっていた酒場の扉すら破られた!
 その時、我々がどうしたと思う!」
スヴェアは、酒場に残っている客達に向かって問いかける。
「勇敢に戦ったとでも言うのかい? その貧弱な身体で……」

「ああ! 彼らは戦った!
 だが…… その一方で、私は怯えて見ていただけだった!
 とても生きてゾンビの包囲網を突破出来るとは思えなかったからな!
 奇跡が起きるのを待ち、ただ怯えて酒場の片隅で縮こまっていた!」
「50点。
 その演説は我々の心を打たない」
「ほう?」
「我らスワンプの絶望の沼に沈んだ者……
 勇気ある者達の冒険譚は別の世界の出来事でしかない」
「結末を急ぐな。
 その勇気ある者達は、酒場の外に出るなり全滅した」
「ほう! その彼らが今も生きている。
 面白いな。 続きが聞きたい」
シェク人の傭兵達がスヴェアの話に興味を示し始めた。
「彼らがなぜ生き延びられたか……
 それは……」

「私の力だ。
 弱く、臆病で、一文無し。 おまけにハシシ中毒!
 そんな私が、彼らを救ったのだ!
 何も出来ない無力な弱者が、気絶した彼らを一人ずつ引きずって運び、治療し、ベッドに寝かせた。
 そして、目覚めたあの少年が……クロト隊長が防壁上の砲台に走り、敵の大将を射殺した!」
「ふむ、武勲だな。
 ……で、お前は結局何が言いたいのだ」
「私達のような無力なステイヤーでも、出来る仕事はあると言う事だ。
 敵の目を掻い潜り、味方を治療し、運び、助ける。
 そしてゾンビの臓物を切除し、復活を阻止。不死者を死者に戻す。
 ……おまけに、特務隊として働けば稼ぎもいい!
 どうせ「なりそこない」の我々だ。死肉を漁ったとて感染の心配はない」
「90点。
 稼ぎがいいという点が特に胸を打ちますね」

「私も弱者ではあるが、幾らかのスキルは残っている。
 いいでしょう! 共に戦いましょう!」
「わ、私も、死体の始末くらいなら……」
都会からの逃亡者らしいハイブの男と、座っていた禿頭の客が立ち上がる。

平凡で真面目な農夫 マクフィ
 

スワンプの犠牲者 逃亡犯 シルバーシェイド
「貴方達はどうですか?」
「2000catだ」
「100点! さあ、行きましょう!」

シルバーシェイドと名乗ったそのハイブは、懐から高額の札束を取り出し、傭兵に手渡す。
 
(ただの食い詰め者ではなかったか。
 私が見立てを誤るとは……)
 
「クロト隊、臨時増員を加えて13人!
 それに傭兵さん6人を合わせて19人!
 イッヒヒヒ! こいつはなかなか、頭数だけなら大したモンだよ、隊長さん!」
グリームが愉快そうに笑う。
今から波のように押し寄せるゾンビの大群と相対する事になると言うのに、実に楽しそうに笑う。
「大群ばっちこい!! 稼ぎの時間じゃーん!!」
「対ゾンビ特務隊、出動!」
「「「おう!!!」」」
クロト隊は酒場を出て、夜闇の中へと駆け出して行った。

「中々良い演説だったぞ」

「どういたしまして」

「お前達と組む事に迷いはあったが……
 こんな物を見せられてはな」
「では、同盟は拡大方向で継続、で」
「ああ」
そして、マッドタウンの地獄が始まった。
「意気込みは買います! でも、先走らないでください! 囲まれます!」
「おっと、これはいけない! 20点!」
「あわわわわわわわ」

酒場を出ると、もう目の前までゾンビ達は迫っていた。
突出した新人2人を呼び戻し、クロト達は体制を整える。

「僕たちは弱い! それを自覚して下さい!
 攻撃対象は単体行動しているハイブのみ!
 戦線の維持は傭兵の皆さんにまかせて、僕たちは勝てる敵を叩き、死体を端から全てトドメて行きます!」
クロトは無理をしてでも隊長らしく振る舞った。
そうでなければ、少々話を盛ってくれたスヴェアの演説が無駄になる。
逆転勝利を果たした奇跡の少年隊長。
その役を上手く演じてみせなければ。
「左! ハイブゾンビ1! 囲んで!」
「おお!」「任せんしゃい!」



「いい隊だ! 助けは必要なようだがな!」
傭兵隊長が一撃を加え、手早くゾンビを始末する。

強敵を傭兵達が囲み、周囲のザコは特務隊が始末する。

弓を装備したダルパンが傭兵達を誤射しない位置から援護し、強敵であるシェク型ゾンビも仕留められた。
即席のフォーメーションは上手く機能し、誰一人深手を負う事なく、酒場の前に迫っていた敵の一群の殲滅が終わる。
「ケスダー、お前は残って坊やを手伝え!
 門の方は任せな! 特務隊は復活の阻止に集中!」
「しゃーねぇな!」
「了解です!」
酒場の前の敵を片付け終えると、一人を残して傭兵達はスワンパーの援護に走っていった。

町の外縁部では、今も激しい戦闘が続いている。
モタついている場合じゃない。

最後の一体を切り倒すと、クロト達は急いで駆け回る事となる。
彼らの本当の仕事はこれからだ。
マッドタウン正門のすぐ後方、砲台を据え付けた櫓の足元まで敵の大群が迫っている。
次々撃ち倒してはいるものの、次々蘇り、また動き出す。

特務隊は起き上がるゾンビと戦いつつ、臓物を切除して蘇生を阻止して回る。
無数の砲台がガシャガシャと音を立て、スワンパーの射手も正門へと弾幕を浴びせ続けている。
これなら行ける。
特務隊が後方の撹乱を阻止した甲斐もあり、スワンパーの射撃部隊が上手く機能し始めた。
「かーーーーっ!! 笑いが止まらねぇっ!
 がっぽがっぽ! ゾンビ様様っ! 大収穫じゃーーーん!」
グリームはご機嫌でゾンビの懐を漁り続けている。
後で稼ぎを分配する取り決めではあるが、あの分だと幾らかは懐にちょろまかしてしまうだろう。
「ああ、この稼ぎならなんとか借金も返せそうだ……
 だが、油断するな! 怪我をした者は遠慮なく後退しろ!
 動けなくなってしまうと、味方の足をッ」

スヴェアの後頭部に、クロスボウの弾が突き刺さっていた。
「誤射!? ざけんな! こんな時に!」
「どきなさい、私が診よう」
グリームの傍らにチェンが屈み込み、その場でスヴェンの治療を始める。

「おっさん、やるじゃん……」
テキパキとした手際の良さ。
流石ドクターと呼ばれるだけの事はある。
「おっし、命あっての物種、クールなアタイは無理せずこいつをベッドに運びに行くのだぜ」

「金の亡者と見せかけて、良い所もあるじゃないか」
「へへ、そういう勘違いはやめときなドクター!
 アタイは嘘つきのクソ女だかんな!」
スヴェアが味方の誤射で倒れるというハプニングはあったが、戦いは順調に進んでいた。

凶悪な個体の出現に前線が崩される事もあったが、スワンパー、ブラックシフター、ツインブレード、そして特務隊……
それぞれの活躍と包囲射撃により、無事撃滅する事が出来た。

「グガガガッ!! フレームにダメージ! テッタイします!!」
「ぐっ!! わ、私も、下がらせてもらう!」

「勝っていても調子に乗らないで! 散開は厳禁! 固まって戦ってください!」
勢い付いた部隊は、いつの間にか夜闇の中で分散してしまっていた。
まだまだ隊のコントロールが出来ていない。
クロトは自分の未熟を恥じた。
やがて、町に夜明けの光がうっすらと射し始める頃……

朝一番の仕事に出てきた一市民が彷徨うハイブを殴り倒し、勝敗は決した。
残敵の掃討はもう衛兵にまかせて問題無いと判断。
倒れたスヴェアの様子も心配で、クロト達は酒場へと戻ることにした。

幸い、スヴェアの頭に刺さった矢は脳に損傷を与えてはいなかった。
寝ていれば回復する程度の傷と分かり、クロトは大きく安堵の息をつく。
クロトを含め、重傷の者から先にベッドに潜り込む。

価値有る勝利。
これで、ツインブレードからの信頼も得られたのではないだろうか。
そう安心し、クロトは眠りに就いた。
「うへへへ! はぁーーー幸せ~~~~!」
「着服?」
「んぁ? ちげーよ、ちゃんと後で分配するってーの」

「独占--可能」
「バーカ、アタイが今あいつらの信頼を裏切ったら、後の仕事に響くんだよ!
 機械で出来た頭のクセして、その程度の損得勘定もできねーのか?」
「憤慨」
「ケケケ!」
「85点。
 中々良い仕事ぶりでしたね。一夜で1万以上のcatを稼ぎ、重傷者は一人のみ」
「悪くないものでしょう? 特務隊って言うのも」
「ああ。君の事は思い出せないが、頼りになる若者だと信じられたよ」
「先生にそう言われると、なんだか照れます……」
「ふぉふぉふぉ! 実際今夜はようやったぞい、クロト殿!」

十分すぎる程の稼ぎを上げられた。
重荷になる臓器は処分し、収集が手軽な爪と牙を集め、売却して行く。

テックハンター達の研究材料になるだけでなく、近頃では硬質化したゾンビの爪・牙は感染の心配が無いと判明し、加工して武具の部品にも使い始めているらしい。
それでも尚、全てを始末出来た訳ではない。
とにかく、襲撃の数は多かった。
夜が明け、日が昇ってからも、特務隊の業務は続く。

「どうだい! 大勝利だ! おまけに大金も稼げた!
 悪くないモンだろ? 人間ってのもさ!」
「エエ、予想外の結果でした」
「市街中央まで入り込まれているのを見た時は、全滅を覚悟シタモノダ」

「愉快--痛快」
「だろー? あっはははは!」
残敵は少なく、戦いは既に掃討戦に入っていた。

市街の敵を駆逐し終え、スワンパー達は徘徊する外部の残敵の駆逐に向かっている。
特務隊は起き上がって来る市街の残敵を掃討し、その全てのトドメを刺し終えた。

任務完了。 戦闘終了だ。
稼ぎは既に軽く2万を越えている。
クロト達だけではなく、町の者の多くがボロボロになっていた。
決して、楽な戦いでは無かった。

「だが、見るガイイ。この光景ヲ……」
「圧巻」
「ソウデスネ…… ニンゲンが、ここまでやれるとは」

やがて、スヴェアも意識を取り戻し、徹夜明けの慌ただしい一日がようやく終わろうとしていた。

「それじゃ、話を付けて来ますね」
「ケケケ、せいぜいハラワタ抜き取られないように上手くやんな!」
「まったく……酷い冗談だ。 頭に響く」
クロトは覚悟を決め、酒場に……
ツインブレードとの会合に戻った。
「いい仕事ぶりだったようだな」
そう言うトルチャ達ツインブレードも深手を負っている。
傷の浅いスワンパー衛兵と比べ、ツインブレードやブラックシフターのダメージは深刻。
組織力はともかくとして、実戦に強いのは日々戦闘をこなしている門番の方、という事か。

「ちゃんと、連れてきてくれたかね」
「はい」
「ドクター・チュンの事は君に任せる。身請けの代金も頂いた。
 好きにするといい。 約定さえ守ってくれれば、もう何も言わん。
 記憶喪失をいい事に借金を踏み倒していた……スヴェアとか言う女の件も、あの一発で「チャラ」にしてやると、ブラックシフターの連中が言っていた。
 ケジメの制裁も済み、全て合わせて4万cat。札束で許しは買える。そういう事だ」
「では……」
チラリと、傍らに目をやる。
「心配するな。
 我々は彼女の過去を知っている。
 悪いようにはしない」
「!!
 は、はい!」
「では、また後でな」
クロトを酒場の外に帰し、ダルパンはツインブレードの囲む席に着いた。

「お父、さん……?」
「そうだ。 お前は忘れているようだがな。
 私はお前の父だ」
「私、ここに、残るの……?」
「お前はどうしたい」
「・・・・・・・・・・」

「お前は、あの少年が好きか?」
「はい。もちろん……」
「それは、一人の男として、愛しているという事か?」
「え? ええと…… そう、なのかな……」
「まだそこまでではないが、好意は抱いている、か」
「うん…… あの人は、優しいから、好き……」
フゥ、と、トルチャは溜め息をつく。
「やめておけ。あの少年だけは」

「ハウンズに続き、ツインブレード、ブラックシフターともコネが出来た!
 順調順調! スワンパーは強くて頼れるし、いいトコじゃね? スワンプ!」
「薬とギャンブルにさえ手を出さなければな」
スヴェアとグリームはすっかり打ち解けたようだ。
いつも気難しい表情をしていたスヴェアの顔にも、僅かに微笑みが見える。
「さて、次はいよいよシャークの町じゃのう!」

特務隊、クロト、ホッブズ、馬。
ウェイステーションで出会った、ダルパン、デーリア、グリーム、スヴェア。
ケルトン組、エレマイア、ベッカム、コスチュニン。
マッドタウンで出会った、マクフィー、シルバーシェイド。
クロト隊、計12名。
一人も欠ける事なく、マッドタウンを出発。
目指すはハウンズの取り仕切る、スワンプ中央……
犯罪帝国の首都、シャーク。

「では、行きましょう! 周辺警戒、よろしくお願いします!」
「おう!」「任せよ!」
彼らは未だ無力なままだったが、その旅は順調。
……今の所は。
<続く>


設定:ダメージ2倍
縛り:展開にそぐわない行動は取らない(犯罪行為等)
注意:当ブログの記事内の設定はKenshiの公式設定とは異なります