気刊くろみつタイムス

主にゲームプレイ日記。過去記事一気読みは「目次」からどうぞ! ※他ブログからのインポート引っ越し時に改行崩れ&画像消滅が発生しています。

#Kenshi ZA-22:スワンプ編⑦

時系列は、グリームが酒場入り口で慟哭した時点へと戻る。
「失せな」

「く……お、おぉぉぉぉぉ……!!」
「グリームさん、大丈夫でしょうか……」
「あんなに楽しみにしてたんだ、落胆も大きかろうな」
「クロトさん、貴方から励ましてあげた方が……」

クロトは、心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。
沢山の別れが、死と陰謀が、記憶喪失と言う理不尽が、積み重なって心を蝕んで来た。
せめて、今度の仲間達は幸せにしてやりたいと、背伸びをして隊長らしくして来たつもりだった。
その緊張の糸が、今、突然に……

第二部:スワンプ編⑦ シャーク(後編)

(コネ……!! いや……! )
そうだ。
そんな名前じゃないはずだ。
僕の記憶は壊されている。
だから……
「待って下さい、そこの人!」

「貴方の、名前は……!?」

「ん? なんだい……
 あれ? ええっと…… あんたは……」
怪訝そうな顔でクロトを睨む、大柄な労働者の女性。
2年の間に、こんなに背が伸びたのか?
別人?
いや、そんなはずはない。見間違えたりするもんか。
「私はミウ
 泥まみれで働いては酒をチビチビ飲むだけの……つまんない女さ」

トラウマを抱えた元逃亡奴隷 ミウ
 
ミウ、か。
そうだ。馴染む。
その名前が正しいんだ。

彼女はコネコなんて名前じゃない。
ミウだ。
「僕を覚えていないのかい? ミウ
「ん……? あんた、私を知ってるのか?」

「僕はクロト。
 そして、君は北スケイル村のミウ。僕の親友だ。」
「・・・・・・・・・」

「すまないな。お前の事はまるで思い出せない。
 だが、初めて会ったはずの私の故郷を知っているお前は、きっと私の知人なのだろう……」
「やっぱり、君も…… ミウも記憶喪失なのか。
 スケイル村が無事なのかどうか、君も知らないのか……」
「いや、忌々しいことに…… それなら覚えている。
 あんたも、スケイルの出身なのか……」
「!?
 村がどうなったのか、知ってるのか!?」
「ああ」
クロトが身を乗り出した、その時。

「アロロロォオォォォオォォォォォォ!!」
ハウンズが吠える。
スワンパーが警笛を鳴らす。
敵襲。 ゾンビだ。

成り行きからミウもクロト達に同行し、ゾンビの処理に駆けずり回った。

「お久しぶりです、ドクター・チュン」
「す! すまない、ね……! 君の事も、私は……」
「ええ、聞きました。
 先生も記憶を失っているんですね……」
おどおどして、周囲に怯えるようなそぶりを見せる恩師の変わり果てた姿。
まともに話そうにも話せない。
記憶を封じられているのだから、こんな動揺を見せてしまうのも仕方ない。
私だって、同じだ。
そうか、とミウは理解する。
こんな、どうしようも無くなった私達の生きる道を作ろうと、彼は必死に頑張っているのだな、と。
実力はともかく、その懸命さだけは信じていいのだな、と。
「これが、あんたの仕事なんだね」
「ああ。
 たとえ弱者だろうと、力を合わせれば出来る事があるんだって、僕は信じている」
「ふん……格好いいじゃないか」
幼馴染にそう言われて、悪い気はしない。
だが、今は浮かれて気を緩めている時ではない。
さっさと町中の大混乱を終わらせて、話の続きを聞かなければ。
一番大事な事を、早く……!!

気は急くが、無謀な突撃は出来ない。
また、黒服のボス格のゾンビが出現している。

屈強なスワンパーやハウンズが束になって対抗し、なんとか倒すことが出来たが、被害は甚大だった。
クロト達は慌てて駆け寄り、倒れた黒服ゾンビにトドメを刺し、スワンパー達の治療を始める。

「チッ、出遅れたかい!
 流石に仕事が早いねぇ、クロト隊長!」

ザコゾンビの死体からcatを抜き取りながら、ハウンズと共にグリームが姿を現す。
「グリームさん?! 良かった、ハウンズに入れたんですね!」
「ケケ! これからはライバル、商売敵だよ?
 一応は同じ特務隊に属するって事だから、アタイとアンタは同格。
 儲けたいなら、アタイらより先に漁る事だね!」
グリームはマクフィーのように行き場のなくなった「なり損ない」を集め、独自の特務隊を編成。
都市連合を中核としたクロト達・本家特務隊とは関わりのない、全利益をハウンズに集中する形での新組織構想をブチ上げていた。
その発想をビッグ・グリムはいたく気に入り、「グリーム隊」の活動を許可。
スワンプに新たな労働者搾取機構が誕生していた。
「ま、そういう事だから、アタイの事は気にしないでいいよ。
 アンタらは危険な旅を続けて、せいぜいアタイらとバッティングしないようにしときな!」
グリームは笑顔で手を振ると、クロト達に背を向けた。
「さあ! あんた達! バリバリ稼ぐよォ!」

グリームは部下に号令を掛け、走り去っていった。
「フッ、相変わらずひねくれた女だ。
 これでスワンプにも対ゾンビ同盟が生まれたという事ではないか」
デーリアが苦笑する。
つまり、自身は利権の上に座りつつ、なし崩し的に都市連合を嫌うスワンプ中枢に特務隊設立を認めさせたという事だ。
都市連合と連携を取らず、同盟間で資金のやり取りを一切しない形を取り、「貴族の犬」に屈しない体面を保ちつつ、同盟の一員として世界に対してのメンツも保つ。
その体制が、一夜にして完成した。
グリームの舌先一つで、だ。
(ありがとう、グリームさん)
ゾンビ始末業が犯罪組織の搾取に利用される事には不快さを感じざるを得ないが、それでも……
グリームのお陰で、この先の話が大きく進むのだろうと、クロトにも察する事が出来た。
(僕の知らない所で、大きな流れが出来ている事は分かってる……)
エリスの言った事を思い出す。
お前は関わるな、と言う、あの言葉。
きっと、ただゾンビに対しての共闘体制を整えるだけの話では終わらないのだろう。
僕の、知らない方がいい事。
薄々、察しはついているが……
そうだ。
僕が今優先すべきは、世界の運命に関わる事ではない。
ミウに話を聞く事、だ。

一通り仕事を終えたクロト達は、酒場「ダンシングスケルトン」に向かい、休息を取る事にした。

「君は僕より一つ年下のはずだけど…… お酒、ミウは飲むんだね」

「こんな辛気臭い町、飲まなきゃやってられないさ。
 幸いこんな体格だ。 子供扱いはされないから助かってるよ」
ミウは昔から漁の手伝いで逞しい身体つきをしていた。
軽装備で軽い刀を振り回していた自分より大柄になるのも不思議ではないか。
それにしても、背丈まで追い抜かれるとは……
「で、スケイル村、だよね」
声のトーンが変わる。
それは、凶事の兆し。
出来る事なら話したくない、思い出したくもない、そんな表情。
「あれは…… 今からもう一年半か、それ以上前だね……
 村が、突然アイアンスパイダーの大群に襲われたのは」

「アイアンスパイダー!?」
「カリヴァン先生がやってたスケルトン研究が原因だ、とか言ってた人もいたけど……
 私バカだから、何が原因かなんて分からなかった。
 とにかく…… ある日突然、機械の蜘蛛に襲われて、村の守りは壊滅。
 何人かのスケルトンがやって来て、私達を奴隷にして、長い長い距離を歩かされたわ」
あの古代の機械が闊歩するオクランの盾周辺ですら、アイアンスパイダーが群れを成す事など無い。
それに加えて、スケルトンの指揮官がいた!?
にわかには信じがたい話だが…… 今は、口を挟むべきではないだろう。
先を聞こう。
「それでも…… 強制労働をさせられていたその時は、まだマシだったの。
 食事も、住む場所も、自由もあったわ。
 後から反奴隷主義者に助け出されて、テックハンターの村に保護されて……」
「まだマシって、テックハンターの村はそんなに酷かったのか?」

「そうじゃないの。 テックハンターの村はみんな優しかった。
 いつか故郷に帰れるようにって、すごく親切にしてくれた。
 その村もまた…… 全滅したのよ」
その話で、ピンと来た。
延々歩かされて連れて行かれた先は、南東か、と。
反奴隷主義者によって解放された辺境開拓計画の村……
フリセ? いや、タンサーか。
「襲ってきたのは、また、スケルトンだった。
 以前よりもっと、ずっと残忍な……
 みんな、みんな殺されて……私は親友と2人で逃げて……」
「親友って、まさか、レット……!?」
「レット? ああ、いいえ……」

ミウは一瞬言葉を切り、表情を変える。
その眼差しは恐怖ではなく、怒りに変わっていた。
「ドッグレットじゃないの。
 彼女とはスケイル村がやられた時にはぐれて、それっきり。
 タンサー村で知り合った、ネックって子よ」
レットは消息不明?!
生きているのかも知れない!?
死んだと聞かされる事を覚悟していた。
僅かな希望と、たまらなく重い不安が、同時にクロトの心臓を締め付ける。
「私はネックと一緒にタンサー村から逃げ延びて……
 そこで、都市連合の奴隷狩りに捕まったわ。
 酷い、本当に酷い場所。
 本当に……」
ミウの口が重くなる。
何があったか、聞くべきではないのだろう。
彼女が話そうとしない限り、触れないでおこう。
「働いて、働いて…… 気付けば私はこんな体格。
 もともと漁の手伝いで筋肉はついてたからね。
 私は、なんとか強くなれた。
 でも、ネックは……
 あれ以上は、持ちそうに無かった」
都市連合の闇。
その犠牲に、ミウが……
一人の侍として、掛けるべき言葉が何も出てこない。
何を言う資格も、僕にはない。
その闇の上に建つシステムの、歯車の一つなのだから。
「私は瀕死のネックを連れて逃げ出したの。
 噂の、逃亡者達の楽園、スワンプに」

「あの頃はまだゾンビもいなかったから、今より逃避行は楽だった。
 ようやくスワンプに辿り着いて、村の灯りが見えて……
 やった、辿り着いた! って、2人で抱き合って喜んだわ。
 でも……
 そこで、私達の運は尽きたの」
この町にネックというその友人はいない。
そういう事だ。
「ブラッドスパイダー。
 人を喰う恐ろしい赤蜘蛛。
 ネックも私も、酷い傷を受けて……
 私は助かったけど、あの子は……目の前で、腹を……」
ミウ……」
彼女の目に涙が溢れている。
もう話さなくていいと、抱きしめたかった。
でも、もう、彼女の方がずっと大きい。
だから、昔よくそうしていたように、髪の毛をクシャクシャにしながら、優しく頭を撫でた。
「フフ、あんたの事は覚えてないけど……
 きっといいお兄ちゃんだったんだろうね」
彼女からすれば、会ったばかりの知らない男だ。
その馴れ馴れしい仕草を拒絶もせず、彼女はしばらく目を閉じてその手のひらの優しさに浸っていた。
そんな、ほんの一瞬の安らぎを、怒声が遮った。

「フォグマンの首は高値で売れるぞ! 殺せ!」

「嫌だね」

スヴェアが耳打ちする。
これはホーリーネーションの謀略だ、と。
無性に腹が立った。
死者が生者を喰らう世界になった今も、未だ人間同士を争わせ、自国の利益しか考えない愚かな連中。
何が聖なる帝国だ。
奴らの信仰する神も、その醜さを嘆いているだろうさ。
「シェイドさん、お願いがあります」
クロトは、煽られていたハイブドローンを説得するため、ハイブプリンスであるシェイドに交渉を任せた。

聞けば、その男グリーンは彼の旧知の人物らしく、勧誘はすぐに成功。
かつてスワンプ1の射手だったという、優秀な人材を仲間として迎え入れる事が出来た。
「後先考えない、バカみたいな人助け……
 これは、スワンプの流儀じゃあないね……」
でも、それこそが、待ち望んでいた何か、かもしれない。
「クロト。 私もついて行く。
 でも、もう一人だけ、連れて行きたい人がいるんだ」

「おお…… この人を人とも思わぬ世にあって、君は幸運な人だね、ハイブ君……
 君の未来に幸あらん事を…… 乾杯だ」
「あ、ああ…… ありがとう」

グリーンはやや迷惑そうにしていたが、感涙にむせぶ臨席の酔っぱらいに、杯を掲げて返礼する。
「自由の都と言われたこの町でさえ、支配者の目と耳を恐れ、皆ビクビクオドオドと……
 これでは奴隷と同じではないか…… 奴隷制度、世界を蝕む害毒…… そうは思わんかね……」

「ああ、同感だね。 俺も奴隷商や人さらいみたいな連中は嫌いだ。
 奴らは、俺から巣を奪った…… お前も、何かを奪われたか」
「妻は…… 助からなかったんだ……
 それ以来、私は奴隷商を殺す事だけを考え、修行を積み、剣技を身に着けて行った……が……」

「転換の日。 肉体が弱り、立ち往生か」
「ああ……」
「フッ、今となっては、世界中似た話ばかりさ。 この俺も含めてな……
 出来るものなら、俺だって、この弓で、連中の頭を……」
「おお、友よ! 共に闘おう!」

と、グリーンの手を取る男の背後から、ミウが声を掛け、割り込む。
「はい、そこまで。
 飲みすぎだよ、ハムート」

「あ…… あぁ?! あ…… あぁ……
 ミウちゃん、か……」
「またこんなに飲んで…… 体に障るよ?
 ほら、またちょっと痩せたでしょ」

「ああ、すまん…… もう、飲まんよ……」
ミウ、この人は?」
「ああ、隊長さん。 この人はハムート。
 奴隷市で私とネックを助けてくれた、大恩人さ」
「助けられたと言っていいものか…… 疑問だがね……」

「シャークを、スワンプを、出よう。ハムート。
 復讐も、自分を責めるのも、もうやめにしなくちゃいけない。
 あんたは、ここにいちゃいけないんだ!」
「そう…… だな…… そこの、隊長さんさえ良ければ、だが」
「勿論! ミウの恩人なら、僕にとっても恩人です!」
「ありがとう…… 都市連合に君のような人間がいるとはな……
 こんな私の命で良ければ、何かの役に立ててくれ……」

憎悪と悲しみの元逃亡奴隷 ハムート
「出来ることなら、奴隷商との戦いを…… 命じて欲しいものだ」

その不穏な言葉と眼差しの変化は小さく……
周囲には聞き取れないものだった。
「チッ……
 負け犬とクソ虫が慰め合いかよ。 胸糞の悪い……」
聞こえよがしに舌打ちし、悪態をつく男が、一人。
「10点。 言いたい事があるならハッキリ言ってはいかがかね?」
「あァ? んだその目は、何ガン飛ばしてやがる。
 喧嘩売ってンのかコラ」
「0点。 貴方が喧嘩を売ったのですから、当方がガンを飛ばす事になったのも当然でありましょう」

普段は冷静そうに見えるシルバーシェイドが、売られた喧嘩に食いつくような勢い。
グリーンをクソ虫と呼ばれた事が、余程頭に来ているのか。
「シェイドさん、ストップです。 ここでの揉め事は……」
「む…… クロト様がそう言うのでしたら……」
「ンだよ、テメェもハウンズにビビッてるクチか? アァん?
 御大層なのは鎧だけかよ兄ちゃん!」
男が席を立ち、クロトに迫る。
「ハァ…… 貴方と戦う意味がどこにあるんです……?
 僕は、仲間を守るためにこそ剣を振るいます。
 貴方も、その剣はゾンビに向けて振るってください」

「……そうかい。
 ヘ、ヘヘ…… 言ってくれたな、兄ちゃん。
 そうまで言われちゃ、俺も覚悟が決まるってモンよ!!」
背を向け、酒場を出ようとするクロトに、抜刀した男が迫る。
やるならやれ。
気付いていながら、クロトは無防備に出口に向かう。

「だからさぁ」
「グぼぁっ!?」

店主の女性が棍棒を振るい、男に強烈な一撃を食らわせる。
「ついさっき言ったばかりだるォ? ウチのシマで揉め事を起こすなってサぁ。
 なり損ない風情がダンシング・スケルトンにタテつこうなんざ、いい度胸してるじゃねぇかアァン!?」
一方的な暴力。
店舗警備員のスワンパーも加わり、リンチが始まった。
「待って下さい! 僕は何もされていませんから!!」

このままではあの男が殺されてしまう。
ただの酔っ払いのゴロツキであれ、見捨ててはおけない。
「ケッ、これだからジャンキーは……」
クロトが止めに入るより早く、男は意識を失っていた。

「はいはい、そんな所で寝てちゃ風邪を引きますよっと」

警備員が男を抱え、店の外へと放り出す。
治療すらしていない。
このままでは命の危険もある。

「世話の焼ける人だ……」
クロトはその場で治療を施し……

「ベッド代、置いときますね」
「兄ちゃんも物好きだねぇ、そんなクズに同情する価値なんざ無いよ?」
「これも、都市連合は敵じゃないって、知ってほしいからですよ」
「ハッ、そんなの、スワンプで通じないと思うがね」

クロトは男に包帯を巻いた後、ベッドに寝かし、酒場を後にした。
他所者が目立ち、説教じみた事を言ってウロウロしていると、こういった反発も招くのだろう。
そろそろ出発した方が良さそうだ。

「付き合いきれん」

次々増える人員。 あまりに甘すぎる隊長。
スヴェアは部隊を抜け、去っていった。
これ以上感傷に飲まれる、その前に……

スヴェアが去っていったのも当然だ。
完全に、蓄えが不足している。
残高は厳しくなっているが、いくらか食料を補充し、旅立ちの支度を整えて行く。

ここに留まってゾンビ処理で稼ごうにも、もうこの町にはライバルが存在している。
資金を稼ぐにしても、次の村に着いてからの方がいい。
出発を急ぎつつ、その前に……
「少し、挨拶して来ます」
「了解じゃ。クロト殿も律儀な事じゃの」
「待ってるよ、クロト」

「おや、なんか用かい隊長さん」
「僕らは、出発します」
「ああ、そうかい。 アタイは付いて行かないよ」
「ええ、分かってます。 ただ……」

「ここを発つ前に、ありがとうございました、って、言っておきたくて」
「ヘッ、礼を言われるような事は何もしちゃいないよ」
「貴方は素直じゃないって、デーリアさんが言ってましたよ」
クスッ、と、背中を向けたまま、笑ってしまう。
「本当に、ありがとうございました、グリームさん!」
中越しのクロトの声が、上下に揺れる
こっちは振り返ってもいないのに、思いっきり頭を下げて、礼を言っているワケだ。
こちらこそ、どういたしまして、だよ。

こんなモンは、もういらねぇ。
いい機会だ。 スパッとやめちまおう……

スワンプから持ち出せばいい値がつくらしいが、迷惑は掛けらんねえ。
金じゃねえ。
男は心意気で生きて行くんだ。
それが、俺達の目指した、本当の……

「待って下さい、外交官の方!」
「んん? ……都市連合の少年か。 敵国人が私に何か用かね」
「どうしても、尋ねずにはいられないんです。
 なんとかして…… 休戦は出来ないまでも、ゾンビとの戦いだけでも共闘出来ないものでしょうか」
「ああ、そういう話なら……」

「そういう話は、お前がすべき話ではないだろう? 坊や。
 君は何様のつもりかね」
そうだ。 勘違いしてはいけない。
食い詰め者ばかりを集めた形ばかりの部隊の隊長。
外交官と交渉など……
「それに、だ。
 お前からはナルコの忍の臭いがしすぎる。
 光の兄弟と口を聞ける立場にあるはずもなかろう?」

「過去、浮浪忍者が何をして来たか……
 この場で殺されないだけでも感謝するといい」

その声には、形式的な脅迫だったスワンプの者達とは違う、心底からの侮蔑と憎悪が感じられた。
その言葉の裏に何があるのか、気にはなるが……
今、僕が目指すべきは、その謎の解明ではない。
故郷へ。
滅んでいようと、いまいと、
レットが待っていようと、いまいと、
この目で現実を確かめる。
まずは、それからだ。
支度を終え、クロト達はシャークを出発した。

「おおぉぉーーーーい! 待ってくれぇぇぇぇぇぇ!!」
シャークを出発したクロト達を、走って追ってくる男が一人。

「貴方は、酒場の……!」
袋叩きにされた傷もまだ塞がっていないというのに、それでも懸命に走って追ってきたのか。
「へへ、あんちゃんを男と見込んで…… 頭を下げるぜ。
 あんちゃんには、暴言を吐いちまった。 俺が馬鹿だった」
「いえ、いいんです。 ハウンズを恐れているのは事実ですし……」
そうだ。
この男だけが、力による恐怖で支配された町で、奴らに楯突いて見せた。
それが、苛立ち紛れのただの喧嘩だとしても……
この男だけが、ハウンズの脅しに屈せず、剣を抜いて立ち上がったのだ。
その蛮勇の背後には、どんな人生があるのだろうか。
「で、だ。 俺は、あんたを男と見込んだ。
 俺も…… 俺も、あんちゃんの仲間に加えちゃもらえねぇか!」

「ふぉっふぉっ、そう来ると思ったワイ」
「やれやれ、スヴェアがいれば、また小言を言うのであろうな」
「だが、我が主なら、返事は一つだ」
「はい! もちろん、歓迎しますよ!
 ええと……」
「モムソー。
 刺殺屋モムソーってぇ、物騒なあだ名にしちゃあチンケなゴロツキさ。
 すっかり腕は錆びついちまっちゃいるが…… ま、上手く使ってくれ、あんちゃん!」

元ストーカークランの鉄砲玉 "刺殺屋(スタッブス)" モムソー
(悪ィな、グレイの旦那…… ファングの兄貴……)

(俺は…… あいつの中にこそ、スワンプ魂ってのを見ちまった。
 この目、この体に懸けて、俺は、俺だけは、最後まで親分の流儀を貫き通すぜ)
「っしゃあ! さあ、行くぜ行くぜぇっ!」
晴れやかな顔で、モムソーが隊列に加わる。
「って、お前さん、ワシらが今からドコに向かうかも知らんじゃろうが!」
「ハッハー! 細けぇこたぁ気にしゃしねぇよ!」
「また調子のいいのが入って来たものだな……」
「50点 これからに期待」
「お前さんもまだ新顔じゃろうが!」

ハハハ、と歓迎の笑いが男を迎える。
懐はすっかり冷え切って、故郷がどうなっているのかも分からない。
行く先の不安は増すばかりだったが……
モムソーの持つ生来の明るさが、クロトの心を和ませてくれた。
ただ、僕は故郷へ帰りたいだけなのに……
僕は、この先皆の期待に応えられるのだかろうか?
せめて、この僕一人のわがままで突き進んできたこの旅が終わる時、その結末がどのような物になろうとも……
支えてくれた皆への感謝だけは、忘れないようにしよう。

シャークから南西、小さな村で補給を行う。

問題は、ここからだ。
シャーク ~ クラウンステディ ~ ドリフターズラスト
そして、北スケイル村。

補給に乏しいルートを、足りない食料備蓄量で、何の訓練も積んでいない新人を連れて行く旅路。
無事辿り着けるのか……
様々な不安、恐怖、重圧に苛まれながら、クロトの旅は続く。

スワンプ地方は広い。
沼地の瘴気から抜け出すまでは、まだまだ掛かりそうだ。
 
 
 
<続く>


 
<補足>
※モムソーは「Stab」ではなく「Stub」。「刺す」ではなく「残り物」の意味
※刺殺屋は誤訳となります。

使用MOD:ゾンビアポカリプスリバランスTORIリビングワールド、等
設定:ダメージ2倍
縛り:展開にそぐわない行動は取らない(犯罪行為等)
注意:当ブログの記事内の設定はKenshiの公式設定とは異なります