グリッド。
格子状の奇怪な山脈が連なる古代文明の痕跡。
かつては工業地帯だったとも噂されるが……
その山脈は金属の光沢を放ち、熱で溶けたような表面をしている。
過去、この地で何があったのか……
スケルトン達は黙して語ろうとはしない。
第三部:西部編④ グリッド~ウェイステーション編
「警戒」
コスチュニンが警告する。
「そろそろ「出る」エリアに入った、と言う事じゃの」
「総員、周辺警戒を!」
「ヒッ! 首長!?」
「ハハ…… あれは茶色い木だよ、ダルパン」
怯えているのはダルパンだけではない。
全員が同じだ。
この一帯に生息している捕食者……ビークシングの数は多くないという事だが、補足されれば逃げ切る事は不可能。
細心の注意を払って前進を続ける。
と……
「あれは目立って助かるな」
馬が前方を指差し、壁際に寄って隠れる。
「な、何すかアレ!?」
「吾輩らは変異種と呼んでおる。ゾンビの中のゾンビ、大将格の個体よ」
果たして、あれは「ハイブのゾンビ」なのかどうか……
それすらも分からないが、とにかく、見つからないように迂回して進む。
そして……
「発見」
コスチュニンが指差す。
「おお、これは…… ブラックデザート方面で一度見た物と同じ型じゃのう!」
古代の工場施設跡。
電源さえ通えば、今でも稼働可能にも見える状態。
これならば、収納された品にも期待が出来るか。
馬もホッブズもゾムネジアの影響で鍵開けのスキルは失っている。
今回もクロトの出番だ。
幾つかの収納箱を解錠すると……
「上質な打撃武器か…… ミウ殿、使ってみるか」「いいね。使わせてもらうよ」
「これは! 先生に教わった通り! 技術書に、工学書、ですよね?!」
「そっち方面はクロト殿が一番くわしいんじゃ、ワシらに聞かれてものぅ……」
「義手かっ!」「カーーッ!残念じゃのう!」
残念ながら、義足は見つからず。
クロトは大きく肩を落とし、「また待たせる事になってごめん」とダルパンに謝る。
「私の事は励まさなくていいのか」とシルバーシェイドが抗議の声を上げ、一同が笑う。
探検は空振りに終わったが、気持ちは前向き。
悪くない雰囲気だ。
「収納」
コスチュニンがバックパックに貴重品をしまいこんで行く。
「我が主よ、台所事情が厳しいが、沼地の遺跡の分と合わせて相当量の資材。
換金しておかなくて良かったのか?」
「この素材は……凄いんですよ。
いつか使う日が来たら、喉から手が出る程欲する事にもなりかねない……
義足だって、自力で作る事も可能になるくらいの……
だから、売却は最後の手段です」
興奮気味のクロトに、肩をすくめて応じるデーリア。
マシニストの授業を受けて育ったクロトだからこそ価値が理解出来る、という事か。
遺跡探索は空振りに終わった。
ここからはまっすぐに北上し、ハイブ村を目指す。
間でウェイステーションもあるし、シェク軍とは敵対していない。
ホーリーネーション軍もこの辺りにまでは姿を現さないし、比較的安全な旅が出来るだろう……
とは、シェク王国を旅慣れた馬の言。
「馬さんはこの辺りに住んでいたのですか?」
「いや、もっと西…… 若い頃は首都アドマグで正規兵を目指して修練を積んでおった」
「おお、エリートであったか」
「そのような目で見るでない、デーリア殿。
吾輩は、因習に縛られ何も改善しようとせず、何でも根性で解決しようとするシェク軍に愛想が尽きて旅に出た出奔者よ」
「怪物相手の修行の旅、と言って除隊届けを出した故、お尋ね者と言う訳でもないが…… まあ、王国に戻りたくはないな」
「ワシらには、夢があるからのう!」
「ああ。伝説の財宝、男のロマン、そのためにこそ命を掛けるのが我らよ!」
「いいですね! そういうの……!」
トレジャーハンター。ロマン溢れる響き。
クロトは目を輝かせて馬とホッブズの冒険譚に耳を傾けていた。
「さて、と。 まあ、吾輩達の話は記憶も不確かな与太話ではあるが……
ここらの地理は覚えておる……はずだ」
「バーサーカーの村は避け、ウェイステーションを目指すとしよう」
「スパイダー平野ぁっ!? 何よその名前!!」
ミウが素っ頓狂な声を上げる。
蜘蛛と聞くだけでこうなってしまうのも、彼女の過去を考えれば分かる話だ。
「前方! 二匹来るぜぇ!」
「スキンスパイダー2体…… 駅は近いですし、行きます!」
「ウム、やれるはず!」「誤射せんように頼むぞい!」
2体のスキンスパイダーの成体。
容易い相手ではないが、スキマーよりは安全に戦える相手。
ダルパンとシルバーシェイドを地面に下ろし、前衛がスパイダーに立ち向かっていく。
「うらぁっ!! おお、こいつは行けるぜ兄ちゃんよ!」
「ああ! 装甲を持たぬ害虫……私の攻撃も通用している!」
「油断しないで! こいつら、一発が大き…… きゃあぁぁぁっ!!」
「ミウ! 下がって!!」
「っしゃあ! 一匹仕留めたぜぇ!」
「ぐっ!! またしても……む、無念……!!」
大荷物を担いで回避運動が鈍っているデーリアが倒れる。
「今治療を…… ぐがっ!!」
止血に向かったドクターも痛撃を受ける。
「どうします! クロト様! ステーションは近いですが!」
「押し切れます! 撤退はしません! 攻撃を!」
「ふぃ~…… 痛ててて…… 片付いたか」
2体のスキンスパイダーを仕留め、牙を抜いてトドメを刺す。
戦いは特務隊の勝利に終わったが、クロトの想定より被害は大きい。
ステーションが近いと見ての判断だったが、これで良かったのかどうか。
「行きましょう」
デーリアも意識を取り戻し、自力で歩ける様子。
止血だけして先を急ぐ。
見えてきた。
ウェイステーションだ。
しばらくはここでじっくりと療養か、と長逗留を覚悟して坂道を登っていた、その時。
「後方から一体来るぞ!!」
「対処可能です! 重傷者はこのままステーションへ!」
「おい! シェクの姉ちゃんが!!」
「!!?」
「いつの間に!?」「か、囲まれています!」
「デーリアさんを回収し、撤退します!」
慌ただしくステーションにむかって退避を開始する。
あそこまで辿り着けば、衛兵の協力も得られるし、砲台も並んでいるはず。
が……
大群出現。
クロト達ではなく、まっすぐステーションへの突撃を開始する。
その中に飛び込んで行く形となるが……
「負傷者をベッドへ! 走れる人は迎撃を!
射撃班は空き砲台へ!!」
テックハンター達は既に迎撃に出ている。
後方の射撃要員を守るため、クロト達は前線を抜け迫ってくる敵を倒すべく行動を開始する。
グリーンはスワンプ1の射手の肩書きに恥じない腕前を披露。
次々とゾンビを倒して行く。
「これは…… なんとかなっとるんじゃないかのぉ!」
「撃破、2体! トドメっ!」
「3体、4体っ!」
「衛兵の討ち漏らしは大体片付いたのう!」
「クロト君! ハムートさんが倒れました!」
「よし…… 後は射撃班と衛兵の皆さんに任せて、後退します!」
「おう! 侍坊や、助かったぜ! 後は任せな!」
「お願いします!」
テックハンターの衛兵がゾンビをつるべ撃ちにし、砲台も唸りを上げている。
もう、任せて大丈夫なようだ。
クロト達は撤退。 既に戦闘は一段落している。
負傷者を寝かせた後……
クロトは単身で戦場に戻る。
ゾンビのトドメを刺して回りながら、倒れたテックハンターや忍者衛兵を治療。
まだ息はある。
なんとか死者を出さずに乗り切る事が出来たようだ。
一通りの仕事を終え、仲間達と共にクロトもまた深い眠りにつく。
ゾンビの大群のお陰で、資金不足の問題は一気に解決した。
シェク領で食料を買い込めば、当分は……
「警告--警告」
コスチュニンが甲高い声で危険を知らせる。
だが、射撃班以外の仲間は全て撤退済み。全員が寝ている。
衛兵達が戦っていた前線から……
第2波、そして、第3波が同時にやって来た。
衛兵達は奮闘を続けているが…… すぐにも戦線が崩壊するのは自明の理だった。
この数の敵が一斉にステーションに押し寄せたら…… もう……
カン
カン
カン
遠く、規則的に、鉄を叩く音がする。
「ナニカ、騒々しくありませんか?」
「聴音機器は今ひとつコンディションがよくない……」
「確かに、これは戦闘の音カトオモワレル」
「我々もヘルプに向かうべきか?」
「旅費が稼げなくなるのはコマルカラナ」
「マア、ゾンビガ相手ならば、死にはしないでしょう」
「トツゲキ!!」
彼らは得意とする単純作業を荒野で続け、鉱石を売って旅費に充てていた。
その鉱石の売却先が、このウェイステーションだったのだ。
「おおっ!! テゴワイ!!」
「ワレワレガ弱いだけですよ!」
三人は前線に飛び込み、ザコの頭数をへらす事に専念。
忍者衛兵を治療し、戦線の立て直しに力を尽くして行く。
「感謝、する……!」
「いやいや、いずれ死するヒューマノイドであろうと、限界まで戦う様をこそ我々は見たい。
ただそれだけ…… これはエンターテインメントであるからな、礼は不要だ」
「仲間」
限界と見て砲座まで後退していたコスチュニンが、三人の姿を認め、歓喜の声を上げる。
「あそこ!」「衛兵さんの援護ね、了解!」
砲座に着いた射手は未だ健在。
ボロボロの衛兵を援護し、撃ち倒し続けている。
「後方、これで全てです! 後は……!」
ステーション周辺に迫って来ていた敵は全滅。
しかし……
最前線は、死にものぐるいの闘いを続けていた。
「そ、そろそろ、ギブアップしても良いか!」
「衛兵が倒れれば終わリダゾ! 踏ンバレ!」
「ゲンカイは近いですが……」
「ぐガッ! が、ガガガ……」
まずベッカムが倒れ……戦線は崩壊しつつあった。
「ゲンカイか。コスチュニン、キミはトドメを刺して回りなさい!」
「了解」
後方では、倒されたゾンビが起き上がり、射撃班へ襲いかかり始めている。
コスチュニンは倒れたゾンビの臓物抜きを優先し、戦線を離れる。
が……
スケルトンの四人は全滅。
戦闘は、残る衛兵達に託される事となった。
「っ…… 痛ててて…… あれから、どうなった……」
戦闘の騒音が遠方から響いている。
「まだ続いてるのか……」
酒場を見回し……
まだ傷は癒えていなかったが、ミウは独断で傭兵を雇用。
前線に増援を送り込む。
これで、ようやく形勢が逆転した。
おおよそ全ての敵を倒し終え……
スケルトン達は酒場へと向かった。
「クロト殿、クロト殿」
「う…… んん……」
「オヒサシブリです。エレマイアです」
「ベッカムダ。こちらハ……」
「バーン。古馴染みのベテランスケルトンチームである」
「ボロボロじゃないですか!! まさか……」
「ハハハ、ナカナカニ厳しい戦いでしたな」
「すみません…… 僕達が寝ている間に……
でも、どうしたんですか? こんな所で」
「同盟の村に世話になっていたのだが、手酷くヤラレテナ」
「ワレワレデ支援物資を届けた後、スワンプニ向かって南下する途中だったのです」
「随分と大荷物ですね!」
「ああ、弾薬、人間のための食料、四肢欠損者のための義肢ヲツメコンデ……」
「義足が!?」
「ダルパン、ダルパン、起きて!」
「ん…… クロト……」
「それじゃ、取り付けるよ」
「お願いします……」
太ももの半ばで切断され、失われてしまった片足。
彼女の足の付け根を手に取り、そこに義足の取り付けを……
神経接合プラグを突き刺さねばならない。
「神経が接続されるまで、痛むそうですが……」
「ん。我慢する。 やって……」
「ぐっ!! 痛っ……!!」
「落ち着いた……みたい」
「良かった! 本当に……良かった……」
本当に?
ハッピーエンドなんかじゃない。
彼女のしなやかな足は、永遠に失われ、壊れやすい金属の義足に頼らなければならないのだ。
決して、良くはない。
それでも……
それでも…………
「動きにくさはありますが…… 射撃には問題無いです」
明け方、トドメを刺し損ねている敵との戦闘が尚続いていたが、ダルパンにとっては丁度いいリハビリになった。
全ての敵を仕留め、ボロボロの皆が起きて来るまで、シルバーシェイドと共に敵の処置に走り回る。
やがて他の皆も起きて来て、負傷者の治療と回収も始まる。
かなりギリギリの戦いだったが……
死者は、忍者衛兵が一名のみ。
大群3つとの立て続けの戦闘。
激闘はステーション陣営の勝利に終わった。
丸一日を回復に費やし、一行は残敵の駆除に協力。
ゾンビからたっぷりと「収穫」を得て、今後のための資金は十分すぎる程に確保出来た。
特務隊17名。
大所帯となったクロト隊は、ウェイステーションを出発。
もう、義足を買いにハイブ村に向かう必要も無くなり……
一行はシェク王国領・スクインの町を目指す事となった。
馬曰く、この世界でも屈指の安全性を誇る町、だそうだ。
今後どうするか、その計画を練るためにも、まずは大都市に腰を据えよう、という訳だ。
放浪者の集う町。
屈強な戦士に守られたシェク王国の街道拠点。
スクインの町が見えてきた。
<続く>
注意:当ブログの記事内の設定はKenshiの公式設定とは異なります