こうして、特務隊本拠点「ガルトナー」の町での生活が始まった。
クロトはまず第一にエリスから受け取った素材を用い、研究を次のレベルへと進め……
やがて、奇跡への道筋を見出すに至るのだが……
それは今よりもっと、ずっと後の話となる。
第五部:決戦編④ 義勇兵結集
コスチュニンは荒野を走り、各地の盟友に招集を呼びかける旅に出たが……
既に多くの仲間がガルトナーの町に向かって旅立った後であったため、もっぱら酒場で新人の勧誘を行う道行きとなった。
それは決して楽な道のりではなかった。
弱体化現象に肉体をやられ、非力な最弱存在となった彼女達を守り、コスチュニンは戦い続けた。
アイネ、ネヴ、メリーニ、ボーレ、ハルキン。
コスチュニンは五人の新人を連れ、本拠点へと帰ってきた。
新人をガルトナーの町に預けた後、再び旅に出たコスチュニンが向かった先は……
ブラックデザート・シティだった。
「何ですって? 私を招集、ですか……?」
「なるほど……」
クロトの親書を読み、事情を把握するサッドニール。
「勝機の有無ではありません。
人類に未来があるとも思っていません。
冒険を娯楽と考える向きも、当方にはありません。
私はただ、貴方達が私を勧誘するという一点のみ…… その圧力によって動く、ただそれだけの理由で行動するに過ぎません」
「まあ、不幸にも人類の世界がこれからも続くのだとすると、ここでこのまま朽ちていく事にもなりますし……
ただずっと待ち続けるよりは、確かめに動いた方が幾らか気が紛れますか。
ご存知の通り、私は私が嫌いです。
ですから、他者の要請により動く事にします。
ただそれだけ、ただそれだけなのですよ」
「了解」
「まったく、口数が少ないにも程がありますね、君は……」
コスチュニンとサッドニールは、スケルトンだけが知る秘密の施設を訪れ……
高性能の武器を何本も持ち帰り、特務隊を大いに沸かせる事となった。
再び本拠点に戻ったコスチュニンは、かつての友、エレマイア達スケルトンチームを率い、引き続き新人スカウトの旅を続ける。
クラークと言う男が、スキンスパイダーとの戦闘時に不幸にもその場で命を落としてしまったが……
新人達も果敢に味方を援護し……
カマリ、プラッタ、ペズポロドヴァ、ホフロフ、ダンリーヴィーの五人が新たにガルトナーの町民となった。
新人の中では最も経験豊富であるグエリがこれらの新人を取りまとめ、サッドニール以外の全員がホッブズの指揮下に収まる事となった。
日々の雑務をこなしつつ、最低限の訓練を行っておく。
コスチュニン隊が戻ると、次に出発したのはスヴェアだった。
アイメルト・トゼッリの忍者兄弟を連れ、三人での出発。
スヴェア隊が向かったのは、スワンプ方面。
何人かの放浪者やJRPG族を仲間に加え、沼地を渡る旅路は、やはり安全なものではなかった。
度々重傷を負い、その度、特務隊が各地に用意した仮拠点に駆け込む事になった。
沼地の移動は、新人にとって特に過酷だ。
走って振り切れない彼らを守るためには、ゾンビが追ってくる事のない水中に逃げ込むのが一番だった。
そうする事で、辛うじてこの危険な旅を続ける事が出来が……
ゴリロ種のゾンビは、水中でも容赦なく攻撃を仕掛けて来る。
全滅を覚悟する局面もあったが、なんとか振り切って逃げる事が出来た。
ツインブレードの町、マッドタウンに逃げ込んだスヴェア隊。
ようやく安心して治療に専念出来る、と安堵の息をつく間もなく……
大量のゾンビがマッドタウンへとなだれ込んで来た。
新人の一人が、足を失った。
この戦いは、ツインブレードの総力を上げた防衛戦となった。
戦力として数えられるのは、スヴェア、アイメルト、トゼッリの三人のみ。
同盟都市を守るため、彼らも必死に戦ったが……
あえなく全滅する。
さらに、二名の新人が片足を失った。
ツインブレードは、幹部達までもが表に出て戦った。
ダルパンの父・トルチャもまた、大怪我を負って足を引きずっていた。
気絶と復帰を繰り返すスヴェア隊の目の前に、危険な敵が立ちはだかる。
クロトが以前「臓器サンプルが欲しい」と言っていた対象、「特異体」のゾンビだ。
Z鋼の剣と弓を持つ強敵。
トゼッリはあっと言う間に倒されてしまう。
が、酒場の用心棒まで総出になって迎撃した結果、辛くもツインブレードが勝利を収めた。
ツインブレード首領・ビッグ・ファングも、得意の奇襲攻撃によって強敵を屠り、戦闘を続けていた。
都市防衛は成った。
戦闘は村の外へと移り、次第に戦闘の喧騒は遠のいていった。
スカウト対象も、戦闘要員も、殆どが出払ってしまった。
静かになったマッドタウンで泥のように眠り続けた後、スヴェア達は足を失った者を担ぎ上げ、なんとかガルトナーの町へと帰り着き……
マルチ、ドラン、ベンヴェヌート、シールズ、マルコヴナ、クドリャ、の6名が新たに特務隊に加わった。
浮浪忍者達はガルトナーとフラットラグーン間を行き来し、「最高水準に至らなかった防具」を中心とした生産物を売却。
今や鉱夫業は純粋に製造材料の採掘であり、今後はこれが特務隊の主たる軍資金となる。
劣悪な装備で旅する事の多いテックハンターの戦力強化にも繋がり、これは互いにとって喜ばしい取引となっていた。
そうして、フラットラグーンの町で出会ったのが、テックハンターの拳法家、チャドだ。
他の新人達と違い、転換の日に肉体が弱体化したにも関わらず、一定の戦闘能力を維持している彼は、かつてどれほどの猛者だったのだろうか……
いずれ南東方面へ進軍すると聞くと、彼は喜んで席を立った。
ガルトナーの特務隊に移籍した後、チャドは新人達を監督する優秀なコーチ役となってくれた。
次に、エリス隊……
エリス、オザンファン、アレッタの三名が旅立った。
「ウム、スクインの事は心配するな。正規軍で充分に守り切れている。
決戦に際してはシェク軍からも援軍を送りたい所ではあるが、あちらはバグマスターという別の脅威に晒されているからな……」
「王都には意気消沈して酒場でクダを巻いているステイヤー達が多く存在しているようです。
アドマグに立ち寄ってみてはいかがでしょうか」
「ニョホホホ…… まさかここまで育ってくれるとはネ。
皇帝一派一同、皆君達の働きには感謝していますヨ!」
「君達特務隊の活躍お陰もあって、各地で対ゾンビ自警団が組織され始めている。
帝国農民を代表して、私からも礼を言わせてくれ」
メズシ、リクター、ネコアツメ、ピアザ。
眼窩の町の西、大砂漠・ブラックデザート方面に位置するウェイステーションに赴任している外交官達。
第二帝国の脅威に対し、情報共有を図る意味でも、各国から兵力を募るに際し、予め彼らに話を通しておく事が必要だった。
不幸なことに、エリス達もクロト達同様、ここで危機的な状況を迎えた。
今度は、外交官達も武器を手にして戦った。
最早非力なゾンビ相手に負ける事は無いと過信していたエリスだったが、数に圧倒され、テックハンターに救われるという無様を晒してしまう。
強く優しい母の面影を走馬灯に見ながら、エリスは立ち上がり、仲間と共に戦い、ウェイステーションを守りきった。
防壁と砲門に守られたガルトナーの町にいては、この感覚が鈍ってしまうか。
世界は、危険に満ちている……
西へ……
シェク王国を目指す途中、次にエリスが向かったのは、グレイフレイヤーの密造酒場だった。
ここで、行く当てのないステイヤーを仲間に加え……
次に立ち寄ったウェイステーションでも、また新たな仲間を得……
ロクに武装もしていない新人達を引き連れ、シェク王国への旅は続いた。
無論、それは危険な荒野を行く旅。
ゾンビに襲われる事もあった。
しんがりを務め、保護すべき隊員を守るのは隊長の務め。
エリスはクロト達を見習い、体を張って仲間を逃した。
が、荒野において、間の悪い事はしばしば起きる。
仲間を逃した後、エリスは単身ダスト盗賊に追われる事になってしまう。
弓兵を引き連れた団体は、いかに重装のエリスであっても、勝てる相手ではない。
一方、一足先に次のステーションに辿り着いた仲間達は、次なる脅威に晒されていた。
多数の新兵を抱えたまま、エリス抜きで防衛戦を行えば、ただでは済まない。
立て篭もらず、逃げる。
瞬時に判断を下したアレッタ・オザンファンは、しんがりとしてゾンビを切り捨てつつ、新兵達を先行させていった。
その先行した新兵達の眼前にも、ゾンビが出現する。
一体のゾンビ相手に全員で掛かっても、尚深いダメージを被る……
アレッタは思い知らさる。
終末兵器の光を浴びて弱体化した我々は、本来このような存在だったのだ、という事を。
気絶した仲間を抱え、エリスとはぐれたまま、一行は次の目的地、ハブを目指す。
単身盗賊団を撒いて走ったエリスは、先にハブの町まで辿り着いていた。
悪い予感を感じたエリスは、傭兵を雇ってハブの町を出た。
間もなく、予感は的中する。
仲間達と合流するコース上に、ゾンビの群れが出現。
谷間を塞ぐようにして出現したそれを、けが人を抱えたアレッタ達の足で完全に回避するのは難しい。
「戦場から遠く離れた場末の傭兵屋なんてのは、こういう時のためにいるんだぜ?」
彼らは、笑顔で敵中に突入していった。
遠慮するな、若者達を生き延びさせろ、と。
エリスと傭兵達が敵を引きつけ、谷の出口に突破口が開けた。
戦場の脇を走り抜け、アレッタ達は無事ハブの町へと逃げ込む事が出来た。
傭兵の無事を祈りつつ……
クロト達が建てたと言う、特務隊ハブ支部を訪れる。
「いい仕事してやがったな、お前ら……」
ベッド、訓練設備、残されていた僅かな装備品。
エリスはそのありがたみに、クロトへの感謝の言葉を口にする。
が、一息ついて傭兵達の救出に向っている余裕は無かった。
ハブの町にもゾンビが出現。
忍者衛兵と共に、エリス隊はその迎撃に忙殺される事となった。
生き延びた傭兵が無事ハブへの帰還を果たしたのは、丁度、そのゾンビ達を始末し終えた頃だった。
生存者、一名。
気にするなと笑って去っていく傭兵。
同盟者である傭兵ギルドに大きな借りを作ってしまった……
いずれ、世界を救う事でこの恩に報いたいものだ、と、エリスは固く胸に誓った。
そして、ハブから南下し、スクインで装備を整えた後……
シェク王国首都、アドマグに到着。
外交官の情報通り、ここには行き場のなくなったステイヤー達が数多く存在した。
未だ非力な戦闘員2名と、重装兵エリス1名。
それだけの戦力で、戦闘力を有していない多数の新兵達を送り届けなければならない。
ガルトナーへの帰り道も、楽な旅にはならなさそうだ。
ボーンドッグの巣に飛び込んでしまう事もあった。
バーサーカーに追われた事もあった。
その時々で、エリス、アレッタ、オザンファンは新兵を守り、戦い続けた。
ある日の危機に際しては、幸運が味方してくれた。
もしあの時ダスト盗賊が出現していなければ、きっと無事では済まなかっただろう。
この滅びゆく世界の中、荒野で盗賊稼業を続けるのは自殺行為だ……
もしも、彼らとも同盟を結べていたら……
そんな甘い考えがエリスの脳裏をよぎる。
複数のウェイステーションを経由し……
再びグレイフレイヤーの酒場を経て……
エリス隊は、ついにガルトナーの町へと凱旋する。
バストラ、ミシリエ、バイルケ、アウリ、ユーソラ、カルタ、デデ、オーギ、ヴネ、ラト、デルガ、ヴォルチ、レニシュ、ヌン
連れ帰った新兵の数、14名。
その全員が五体満足。
大戦果であった。
32名の新人の装備製造と訓練とが慌ただしく進む中……
ガルトナーの町もまた、決して平穏無事とは行かなかった。
「囲むわよ!」「まったく、引退出来るのはいつになるやら!」
日々、ボーンウルフやランドバットのような野獣との戦いが続く。
敷地内に入り込む事も多く、鉱夫を務めていたスケルトン隊は砲座に配置転換され、常時監視の目を光らせている。
代わって、クロト隊前衛主力が鉱夫業務を引き受ける事となった。
そんな日々の戦いの中、馬が倒れた。
片足を失った彼をエリーコが担いで泳ぎ、拠点へと連れ帰った。
「吾輩も、これで強化されたという事よ」
頑丈な足を手に入れ、不満は無いようだったが……
隊を率いる主将の一人としての面目が傷ついたようで、憮然とした表情は中々解けなかった。
ソマンと共にグエリが食糧生産を担当し、大人数の胃袋を支えている。
生産は安定しており、これ以上の増員にも対応出来そうだ。
新人の訓練はまだ完了していない。
予定の準備期間である三ヶ月が過ぎるまで、あと僅か……
総勢92名の特務隊による最終作戦が、目前に迫っていた。
<続く>
注意:当ブログの記事内の設定はKenshiの公式設定とは異なります