クロト達一行は、ついに護送任務の目的地である漁村、三姉妹の故郷、「ポグ村」……

大国から見放された棄民、「デッドキャット」と呼ばれる人々の暮らす、孤立した村。
ようやく、辿り着いた。
第一章:大砂漠編⑧ 漁村(北海岸)
防壁に囲われた村内とは別に、漁師小屋が2軒建つ海岸線。

一見無防備に見える漁師達の仕事場も、油断なく巡回要員が監視の目を光らせている。
危険な辺境地域にあって、独立して暮らして来ただけの事はあって、場馴れした戦士の風格を感じさせる。
「あー魚くせー! 最高だぜ!」
「この臭い、好きじゃなかったけど……
久しぶりに帰ってきた感じで、落ち着くかも!」
「ほらほら、姐さんに挨拶に行くよ!」
故郷に戻った喜びから、普段以上に三姉妹の声は明るい。
「クロトぉー! ほら、みんな行っちゃうよー!」
「あら……?」
「・・・・・・・・・・」

「どうしたの? クロトくん」
「ちょっと、僕も故郷を思い出しちゃって、ね……」
「あら、君も漁村出なんだ」
カイネンは、そう背後から話しかけただけだったが、クロトの目が潤んでいるであろう事は察していた。
だから、今日は抱きつくのをやめておく。
「クロトくんのお陰だよ。 本当にありがとう。
だから、元気だしてね?
……元気になりたかったら、いつでも私が一緒に寝てあげるからね?」
「か、カイネンさんっ!
子供扱いしてからかうのは、感謝の意とは違いますよね!」
「んもーーーー可愛い~んだから~~~!!」
これだから、からかわずにはいられない。
そうして、笑顔満面で抱きつこうとするカイネンの頭に、パスクリの鉄拳が降ってくる。
「この色ボケ姉貴! さっさと行くぞっつってんだろ!」
「あーもー! いいところでー!!」
クロト達は、かつてはそこに正門が存在していたであろう、防壁の崩れ落ちた一角を抜け、村へと入っていった。

屈強な男達が揃っていても、古代の建築知識が無ければ修復は出来ない……
それはクロト達都市連合の侍が、バスト地方で散々悩まされてきた事だった。
そんな、門構えのガラ空きの入り口から見知らぬ一団が駆け込んで来たのだから、漁師達が身構えるのも無理は無い。

「なんでぇなんでぇ! こちとら商売上がったりなんだ、税の取り立てならいい加減諦めやがれ!」
「ちげーよおっちゃん、ほら、ポグつったらコレ、干し魚!
いい仕上がりじゃねーか! 味の染みたいいトコ見繕ってくれよな!」

「おう! ちーと不漁で数はすくねぇが、イイトコは卸さずウチに残してっからな!
目の利くおめぇさんにゃ安くしといてやっから…… って、おめぇ!?」

「へっへっへ! パスクリちゃんだぜ、おっちゃん! しっかし、老けたなぁ~」
「なんだなんだ! おめぇ、えらいべっぴんさんになっちまって!
口が悪いのは相変わらずだなオイ!」
「姐さん、今帰りました」
「……任務は、終わったのか?」
「はい。 例の光で、台無しになって…… お役御免ですよ」
「そうか。 追手の掛かるような事は無いのだな」
「はい」

「なら、胸を張れ。
よく帰ってきてくれた…… おかえり、カリン」

「ただいま…… ユベール姐さん……」
「皆さん積もる話もあるようですし、私達は先に休ませてもらう事にしませんか?」
「そうですね。補給品を補充したら、酒場で一休みしますか」
「そうしよ、そうしよ、おいらも流石に疲れたよぉ……」
クロト達は、村唯一の商店、旅道具屋で補給を行った。


村で編んだらしいターバンや、実用性の高い兜等、幾つか目を引く商品もあった。
買い物を終え、村の中枢施設とも言える、唯一の宿=酒場を訪れる。

他所者を歓迎しない者達の冷たい眼差しや……


架空の戦果を自慢し合う男達の陰気な声や……


不漁を嘆く、更に暗い男達の声……


酒場の中に漂っていたのは、傍目にも一瞬で分かる、陰鬱な空気であった。
が、今はそんな事はどうでもいい。
さっさと補給を終わらせ、寝床に転がり込もう。
「らっしゃい! 魚かい?」

どうせ魚しか無い。
栄養効率も高いようで文句は無いのだが、しばらくは魚尽くしの食生活になりそうだ。
店主とやり取りしていると、視界の隅に一枚の手配書が映る。

「・・・・・・・・・・・」

特徴的にすぎる体格はともかくとして、立ち居振る舞いは全く指名手配犯に見えない。
バーのマスターに宿代を渡すと、倒れ込むようにしてベッドに潜り込む。

一足先に、休ませて、もらっときましょぉ、か……」
「ですわね……」
「ふご…… Zzzzz......」
「ま、しょーがねーな」
「もっと寝顔見てたかったなぁ」
「後の事は姐さんに頼んで来た。
ゆっくり寝かせといてやろうじゃないか」

どうしても、今すぐに確認しなければならない。
昔なじみの恩人達から現状を聞きはしたが、自らの目で確認せずにはいられない。
危険を犯してでも、一刻も早くと焦る気持ちを抑えられなかった。
もう一つの村を目指し、三姉妹は駆け出して行った。
ポグ村の西、丘に囲まれた土地に隠れるように存在する……「ヨルン村」。

そこが、北西域に起源を持つ、彼女達JRPG族の暮らす場所であった。
きっと、もう……
そう思いつつも、三人は走らずにはいられない。
ヨルン村こそ、本当の彼女達の故郷。
本当の家族が待つ場所なのだから。
「待て、隠れろ」
「!?」
「後ろ……来てるよ」
後方から、スケルトンの一団が歩いてくる。
襲われると決まった訳ではないが、彼女らのスケルトンに対する恐怖は根が深い。
咄嗟に身を隠したのは半ば本能的なものだった。

「えぇ~ また髪がメチャクチャになっちゃう……」
「言ってる場合か!」
浮浪忍者としての勘…… と言う程のものでもない。
何か嫌な予感がした。
なりふり構わず、冷たい海の中へと退避する。
その悪い予感は、想像以上の衝撃で的中してしまった。

考えれば当たり前の事ではある。
だがしかし、まるで彼らに溶け込むようにして、共に荒野を行進しているとは……
元々スケルトンに良い感情を持たない彼女達ではあったが、その光景には、嫌悪を越える何かを感じさせられていた。
それはきっと、海の冷たさだけでは無い、本能的な恐怖。
「・・・・・・・・」

「見た顔は、いたか?」
「いや」「いなかったと思う」
「そうか……」
今から、見たくもない現実を直視しに行かなければならないというのに……
三姉妹の足取りは、重くならざるを得なかった。
やがて、「隠された森」と呼ばれる地域に入る。

三人は、ヨルン村……


村と言うよりは、町。 かなり大規模な集落ではあったが……
やはり、聞いていた通り、完全な無人。
人の生活している気配が一切感じられない、冷徹なまでの無音。

廃墟、廃村では無い。
綺麗な町並みのままなのが、三姉妹の胸をより一層に締め付ける。
民家の中を確認しても、やはり誰もいない。

血しぶきの跡も無く、死体の一つも見つからない。

その日食卓に並べられるはずだった生肉も、そのまま放置されている。

一方で、大量に見つかる、何かを引きずるような特徴的な痕跡と、無数のデタラメな足跡
何が起きたかは、もう明らかだった。
何も言葉に出来ない。
涙を堪えるので精一杯。
三姉妹は、黙り込んだまま、無人の酒場で卓を囲み、向かい合って座った。

それだけを口にするので精一杯だった。
ここまでの旅で見知ってきた事と、ポグ村で聞いた話。
合わせて考えれば、結論を出さざるを得ない。
JRPG族は、全滅した。
生来、JRPG族はあの光に対する耐性の低い種だったのだろう。
屋内、屋外問わず、全員が「変化」してしまったと見て間違いない。
自分達のように、完全に陽の光の差さぬ場所で仕事に励んでいた例外があと何人いるかは分からないが、絶滅に近い状態である事は間違いない。
話を聞く限り、多少の例外はあれど、ゾンビ化してしまった人間は、外を出歩いていた者が殆どだ。
荒野を行く旅人や賊、任務中の軍人、そして、家屋内に留まることの少ないハイブ達が軒並みやられてしまった。
一方で、屋内にいて直接光を浴びなかった者達が変化したという話は殆ど効かない。
そうであるのに……
状況を見る限り、JRPG族にだけは、その法則が当てはまらなかったという事になる。
元々出生率が低く、男子の誕生が極端に少ない種である。
もう、彼女達に未来は無い。
「ねえ、やっぱり、クロトくんと……」
「言うな」
「・・・・・・・・」

「あいつの旅はまだまだ続くんだ。
アタシ達には、ここでやる事があるだろ?」

翌日。
この日は慌ただしい一日となった。
漁師小屋の付近をヤギの一団が通りがかり、貴重な肉が獲れる機会になるかと思われたが……

ゾンビの襲来により、期待は裏切られる。


こうなると、デッドキャットの民も感染を恐れてヤギ肉に手を出せなくなる。
自分達に耐性があると信じるクロト達は気にしていないが、世の人々は違う。
とは言え、ゾンビの接近を放置も出来ない。
村を守るため、村の衛士達が出動。


クロト達は、自分達も手伝うべきかと宿を出て門の外に向かったが……
その時にはもう、決着がついていた。
流石は辺境の民、デッドキャットの戦士。
どの国にも頼らずに生き延びてきただけの事はある。
その一人一人が高位の騎士や侍並の実力の持ち主か。



感染を恐れつつも、きっちりと自発的に遺体の焼却を行う。
例え倒れたゾンビが蘇らないとしても、死体を放置していては野生の獣を呼び込んでしまうからだ。
「ここの人達、えらい。 ゾンビこわがってない」
「噂に惑わされず、信仰に狂わされもしない…… 逞しい方達ですわね」
三姉妹やクロト達を「ゾンビもどき」と差別する事もない。
「それに、強い!」
クロトは生半可な軍人よりテキパキと襲撃に対処していくデッドキャットの民に敬服しつつ、「仕事」に取りかかるタイミングを測っていた。
ヤギの処理は任せてもらえた。
帰りの旅程の糧食を確保するためにも、ここで干し肉の補充が出来るのはありがたい。
「さあ、お前達の恩人なのだろう?
客人のためにも、しっかり働いてくるといい」
「ああ!」「はい!」「おう!!」

三姉妹は、昔なじみの衛士達と共に、慌ただしく駆け回っていた。


戦列に加わり、ゾンビを殲滅。


侍として、見習うべき強き民。デッドキャット。
姉妹が強い信頼を置いているのもよく分かる。
勝利の凱旋。

「良し! 負けてられない!
お客さんでいるのは終わりだ。行こう!」
「そうこなくちゃ! お姉さん達、手伝おう!」
入れ替わるようにして、クロト達も門外に駆け出す。

「いた! 起き上がったヤツ! あれなら行ける!」
「了解。囲みますわ!」

村民やヤギとの戦闘でボロボロになったゾンビであれば、倒すのは容易い。
ヤギ肉の確保がてら、きっちりトドメを刺して行く。

と、存外上手く行ったと油断した所で、さらに2匹が起き上がって来る。

勝てない事はないが…… 被害は出る。

エリスが動きを封じ、パウムガルトナーがトドメを刺す。
いい連携だ。


成長は亀の歩み。反面、一撃は重い。
今後も油断せず無理な戦闘は避けなければ。
結局、戦いの殆どはデッドキャットの衛士達に任せる事となったが、戦闘を行い、収穫を得る……クロトにとって満足の行く、充実した一日となった。
「私達、ここに残る事に決めたわ」
「決心したっつったばっかじゃねーか! 覚悟軽いなカイネンの姉貴は!」
「ま、不安なのはアタシも同じさ……」
「なんですとっ!」

三姉妹は無事送り届けた。
残念ではあるが、彼女達とここで別れる事になるのは予定通りの事。
カイネンも、決心した。
クロトからすれば当然の別れではあったが、彼女にとっては断腸の思い。
瞳に涙も浮かぶ。
「エリスはああだし、後はアンタに任せる事になるわね」
「クロトの事、ちゃんと面倒見るんだぜ」
「あ、でもでも! 手を出すのは厳禁ですよー!」
「はい。 クロト様も、エリス様も、危なっかしい方ですから…… フフ。
ええ、はい、カイネンさんもご心配なく」
三姉妹がパウムガルトナーに声を掛ける。
まだ、やや引っかかる所を感じないでもないが、ようやく互いに少しは打ち解けられたようだ。
ここで別れるのは少し残念だな、とクロトも寂しさを感じざるを得ない。
「クロト様も、エリス様も、私にとって命の恩人。
任務が終わるまでは、精一杯お支え致します」
任務が終わるまでは、精一杯お支え致します」
「おいらも頑張る! クロト、おいらが守る!」
と、パウムガルトナーが距離を詰め、声を低くして話し掛ける。
「……故郷は、いかがでしたか?」


「流石に詳しいね。 JRPGの故郷くらいは知ってるか」
「もしかしたら、オレ達が最後の生き残りかもな……」
「家族は、見つからなかったのですね」
「ああ……」
幾つかの情報を確認し合い、女四人はしばらく会話を交わしてから分かれた。
「あの女に任せるって言うのも、心配なんだがね……」
「ねえねえ、お姉様、私だけでもついて行っちゃだめかなぁ?」
「決心したっつったばっかじゃねーか! 覚悟軽いなカイネンの姉貴は!」
「ま、不安なのはアタシも同じさ……」
ピカリングは腕組みして思案する。
「ここは、頼りにならなさそうで頼りになる……?
あの連中を呼んでみるかねぇ」
あの連中を呼んでみるかねぇ」
結局、世話を焼かずにはいられない。
優しい三姉妹は、クロト達の後を追って酒場へと向かった。

「おい、てめーら! 仕事だ、仕事!
村から出たいってヤツぁ、チャンスだぜー!」
村から出たいってヤツぁ、チャンスだぜー!」

「なんですとっ!」

「移住の機会とあらば……」

「我が夢への第一歩、であるな!」

「おう! ワシも乗ったぞ!」

いずれも、あの光で弱体化現象を発症した者達。
「なり損ない」同士、汚れ仕事も厭わない人材。

少なくとも、アタシはそう見た。
知ってるヤツもいれば、初めて見るヤツもいる。
自己紹介を頼むよ!」
ピカリングが号令を掛け、立候補者の四人が名乗りを上げ始める。
「ワシはホッブズ。冒険家じゃ!」

「まったく、こんな所でまた会うとはね…… アンタは顔がマズいんだからそれ被ってな」
「ぬおっ! ひ、酷いのう…… こう見えてワシャ一番の年長者なんじゃぞ……」

他ならぬカリンちゃんの頼みじゃてな、便利屋としてコキ使ってくれて構わんぞい!」
「吾輩は馬!! トレジャーハンターのウマである!」

自称トレジャーハンター 馬
「ホッブズ殿と意気投合したはいいが、蓄えが尽きて旅立つ事ができぬでな。
報酬は既に受け取っておる。 気兼ねなく命令を下してくれい!
残っている技能は、戦闘全般だ。
全盛期と比べれば鼻くその如きものではあるが……
早いうちに勘を取り戻したい。遠慮なく戦いの只中に放り込んでくれて良いぞ!」
「ウチはソマン。技術者じゃ」

「戦いはさっぱりになっちまっとるが、漁師の腕と、壁材の勉強をした知識はしーっかり残っとる。
隊長さんの役に立てるかはわからんが、建築家が必要になった時はバッチリ活躍しちゃるけ、よろしく頼むわ!」
「グリフィン…… それがし、グリフィンと申す」

「フィンちゃん、なに名前変えとんねん!」
「う、うるさい…… それがし、この本名は好きではないのだ!」
の、農夫、鉱夫としての技能が残っている……
特に、農業は、得意、だ!
後は、ソマンの手伝いで、建築の知識が少々。
農業の出来る新天地を目指している…… よろしく頼むでござるよ……」
ピカリングの呼びかけに応じたのは、四名。
ホッブズと馬の探検家コンビ。
ソマンとグリフィンの農家コンビ。
戦闘能力はどんぐりの背比べ。
クロト達と大差無い。
底辺の者ばかりなのだから、頭数が増えたと言っても過信しないように気を引き締めなければ。

「僕が……一応、隊長という事になっている、クロトです。
出身は、南部都市連合領、西端近くのドーセル村。
都市連合、バスト方面軍、第5偵察隊、斥候……
いや…… そんな肩書はもう意味が無いですね。
ただ、クロトと呼んでくれれば、それで構いません。
僕もすっかり弱くなってしまいました……
隊長扱いなんてしないで下さい。共に力を合わせて行きましょう!」
「おお! ワシら四人、いずれも新天地を目指しているのみ」
「いずれ別れる日が来るまで、力を合わせようぞ!」
「ひひっ、ありがたい話しや! よろしう頼むで!」
「よろしく……………………」
「じゃ、元気でな」

「おいおい、礼を言うのはオレ達の方だぜ?」
「もう…… 寂しくなるなぁ……」
旅支度を整える一行に、三姉妹は最後の別れをしに来ていた。
彼女達は故郷に辿り着いた。
次は、僕が故郷に向かう番。
新たに加わった四人はこの村から離れたいだけの旅人。そう遠くない時期に別れる事になるだろう。
任務の報告を終え、故郷に向かう頃には、エリス、パウムガルトナーとも……
正直、優しくて綺麗なお姉さん達に、もっと甘やかされていたい気持ちはある。
でも、こんな別れにも、慣れていかなければならないんだ。
いつまでも、あいつとの…… あの別れを引きずっていてはいけない。
優しい人達と、気持ちよく別れて、思い出を胸に旅を続けて行く。
そして、故郷を目指す……
クロトは感傷を振り払うように、荷物をバックパックに押し込んでいく。
「それでは…… 本当に、ありがとうございました!」
「ばいばーーーい! おねえさーん!」

「ゾンビなんざ俺達三姉妹でバリバリ始末してやっからよ! こっちの事は心配すんな!」
「寂しくなったら、会いに来てもいいんだよ! 私、待ってるからねーーーー!」
「死ぬなよ、クロト! お前は、いい男だ! 必ず、恋人の待つ故郷に帰りな!
死ぬんじゃないよ、クロトっ!!」
チラリと、視線をパウムガルトナーに送る。
相変わらず、感情の読めない穏やかな微笑み。
怪しさの欠片も見せはしない。
相変わらず、感情の読めない穏やかな微笑み。
怪しさの欠片も見せはしない。
と、旅立って行く一行から離れ、パウルガルトナーだけが駆け戻って来る。
「なんだなんだ? まだアタシらに何か用かい?」

「ええ…… その、迷いはしたのですが……
やはり、気付いておられないようですし、伝えておかねば、義理を欠くのでは、と思いまして」
「ん…… 何の話だ?」

「勿体ぶってねーで、さっさと言えよ」
「……では」
「貴方達は、本当の姉妹ではない……ですよね?」
「!!?」

が、にもかかわらず、貴方達は一度も義兄弟であると口にしていません」
「い、いや、待て! アタシ達は、確かに……!」
「そうだ! オレ達…… あ、あれ?!」
「そんな…… 嘘!? な、なんで!? えっ……」
「故郷で、家族の消息を確認してきたのでしょう?」
「あ…… あぁぁ…… ぁ……」
そうだ。
なぜ、なぜ今まで気付かなかったんだ。
ヨルン村で……
それぞれの自宅を、それぞれの家族を、生存者がいないかと、念入りに探し回ったじゃないか。
あまり気が重く、会話すら無く探索を続けていたからか。
そんな単純な事にすら思い至っていなかったとは……
「私達は、きっと、エリス様と同じように、皆、精神に傷を負っているのだと……
私は、そう考えています」
「エリスが昔の事を忘れているように、アタシ達は……本当の家族の事を、忘れている、と……?」
「じゃあ、貴方も、何かを?」
「ええ、断定は出来ませんが、思い当たる節はあります」

「私が知らせないまま去ったとしても、いずれ近いうち、齟齬に気付く時は来るでしょう。
ならば、今知らせておくのが貴方達へのせめてもの礼、なのではないかと……」
「待って! あの光を浴びて、何かがおかしくなっていると言うなら……!!」
「ええ」
カイネンの悲痛な叫び。 パウムガルトナーの冷たい回答。
「私は、南西にドーセルという名の村があるなどと、聞いた事がありません」
もうすぐ夜が明ける。
クロト隊一行は、既に旅立った後。
「ったく、しょうがないねぇ……」

なまった体鍛え直して、行くしかないじゃないか。
可愛い大恩人、アタシらの弟分のためにさ!」
「へへ、そうこなくっちゃ!」
「あはっ! 私、あの子のためなら頑張っちゃうよ!」
「会いに行くよ! ……モール姐さんにさ!」
<続く>

